映画の公開作品を見ていましたら「逃げろお嬢さん」のタイトルが目に入り、なんじゃ、こりゃ? と思いながら紹介文を読みましたら『逃亡小説集』という吉田修一さんの短編集の中の一編が原作らしく、ああ読んでいないなあと思い早速読んでみました。
ネタバレあらすじ
えー、これを映画化するんかい?! という小説です。えー、というのは、言っちゃなんですが、これ、面白くないですよ(ゴメン…)。
中年の男の前に青春時代にファンだったアイドルタレントが現れて、男はそれをドッキリだと思い込んで行動するという話で、結末も尻切れトンボで中途半端ですし、率直なところ吉田修一さんのやっつけ仕事ですよ。
雑誌『小説 野生時代』の2019年の8月号と9月号に掲載された小説です。
中年の男康太と元アイドル舞子のそれぞれ一人称視点の記述が交互に並べられて進みます。
康太、舞子の逃亡ニュースを見る
康太は浅間山麓で温泉宿を営んでいる40歳くらいの男です。その宿はもともと両親が登山客用の山荘としてやっていたものを譲り受けたもので、「ランプの宿 大空高原」と名前を変え、手作りの露天風呂を造り、秘境風にテレビなども置かずにイメージチェンジしたら、週末は一年先まで予約でうまるという人気の宿になったということです。
という男の背景は語られますが、その温泉宿自体はほとんど物語に絡んできません。
康太は買い出しのために町に下りたその帰り道のドライブインで「元人気アイドルの鮎川舞子の行方が知れず捜索願が出された」とのニュース速報を見ます。さらにドライブインの客の話として、鮎川舞子の夫が大麻所持の現行犯で逮捕されていることを知ります。
鮎川舞子は康太が高校時代に知ってファンになり、
写真集が出れば、それこそ新車でも買うような度胸と高揚感で街の書店に行き、書店の紙袋から出すのに一日、本体のラップを外すのに一日かけるような扱いをした
アイドルなんです。ただ、時代はそれ以前の山口百恵や松田聖子のようなソロアイドルからアイドルグループに変化する頃で、ソロアイドルとしてデビューし10代を過ごした鮎川舞子は結局トップアイドルにはなれなかったということです。
その鮎川舞子の最大のヒット曲が『逃げろお嬢さん』というもので、これはピンク・レディーの『ウォンテッド』のB面をカバーしたものです。
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へぇー、そんな曲があったなんて知りませんでした。
康太は大学の学園祭に来た鮎川舞子を見たことあります。また、鮎川舞子が担当していたラジオ番組に投稿したハガキが読まれたこともあります。その時の高揚した康太の記述があります。
康太、逃亡中の舞子と遭遇しドッキリと思い込む
康太はドライブインを出て温泉宿に戻る途中、ノロノロと走る赤い車に追いつきます。パンクしているのです。追い越して車を止めてパンクしていると知らせます。運転しているのは鮎川舞子です。
「あっ」「え、ええ!」「あ、あの、すみません。あの……、ですよね?」と康太です。さらに、
いやいや、いやいや、ありえないです。ありえない、ありえない。だって、いや、ありえないです。鮎川舞子? いや、いや、ありえない。
そして、康太はこれはドッキリに違いないと思いこむのです。テレビニュースも、ドライブインの客たちも、そして当然ながら鮎川舞子も自分をはめるためにやっていると思い込むのです(なんで?…)。
映画の出来はこの倒錯思考をうまく表現できるかどうかが分かれ道ですね(笑)。それにドッキリカメラなんて番組、まだあるんですかね。
小説では鮎川舞子の一人称視点に変わります。
舞子、夫の逮捕をうけ逃亡する
舞子がなぜ逃げてきているのかその心情は描かれていません。まあ人間パニックになりますとそんなものですので書くこともないのでしょう。夫の逮捕にショックを受けて混乱したまま逃げ出したという報道があり、しかし次第に舞子も大麻を使用しており、尿検査での証拠が消えるまで逃げているのではないかとの憶測報道が流れ始めています。
舞子はデビュー当時からの友人である小百合に相談し、その夫の別荘を借りることでこの地に来ています。しかし、今あらためて電話をしますと、夫は小百合から取り上げた電話で別荘は貸せないと言い、電話も切られてしまいます。
当然、康太がうちへどうぞという展開になりますが、その前に舞子のデビューからの経緯が語られます。言っちゃなんですがありきたりです。
小学5年生の頃に自分の容姿が際立って可愛いということに気づき、中学生になると学校中のマスコットのようになり、そしてその評判は地域に広まり、東京の芸能事務所にスカウトされます。順調にデビューし、朝ドラに主人公の友人役で出演し、第二弾シングルの『逃げろお嬢さん』もヒットし、さらに伸びていくのかと思われていましたが、なかなか代表作というものに恵まれず、紅白にも落選します。
芸能界の性搾取の話も出てきます。デビュー前の話として小百合が舞子に自分は業界関係者の夜の相手をさせられていると告白してきます。舞子は「人間はどこでいつ誰に媚びるかで、その人の価値が決まる」と思います。そして、紅白に落ちた時、舞子は自分ではなく選ばれたアイドルグループの一人のファンだと公言します。
しかし、この媚びも失敗、次第に舞子の人気はこれ以降加速度的に落ちていきます。そして、結婚します。
再び康太の一人称視点に変わります。
舞子はクスリをやっていたのか
康太は舞子を温泉宿に案内し、部屋の準備のために舞子を営業は終了しているサロンに置いたままにします。部屋の準備をしていますと従業員が鮎川舞子がいます! と飛び込んできます。
康太は慌てません。なぜならこれはドッキリですべて起きることは仕込まれているものだと思っているからです。
映画でもドッキリとして描いているんでしょうかね。もしそうなら康太を演じる俳優次第で出来が分かれそうです。
とにかく、宿では客たちも知ることになり次第に大騒ぎになっていきます。康太は舞子をさらに車で15分ほど登った別館に連れていきます。
再び舞子の一人称視点になり、物語も終盤です。
ここでは事務所の社長、先代の社長の娘で舞子のマネージャーでもあった社長と二人三脚でやってきたことが語られ、その社長からの電話で警察が舞子に事情聴取をしたいと言っていることを知らされます。夫が舞子のことをなにか話したのです。
「ねえ、舞子、あなたもやってたの?」と社長は言い淀みながらも尋ねます。
そして、夫に誘われてクスリ使い始める舞子が語られます。ここの記述も結構長いですが、まあパターンですので省略です。
ドッキリ倒錯思考の中の康太の一人舞台
康太の一人称視点、いまだ康太はドッキリカメラ番組の中のつもりです。これはすべて作り物だからなにも怖いものはないということでしょう。
舞子が警察に行くと言います。康太は「舞子さんは別に悪いことなにもしてないでしょ!」と半分演技、半分本音の興奮状態で言います。「私が悪いことなんかしていないって、どうして分かるんですか?」と尋ねる舞子に康太は、
どうしてって……、俺、ファンだから。昔からのファンだから
(略)
なんていうか、俺の人生なんて大したことない人生ですけど、それでもその要所要所っていうか、嬉しかったり、悲しかったり、そんないろんなときに、ずっと、あなたのファンだったから
と、康太は本音で感極まってしまいます。舞子はきょとんとしています。
従業員から電話が入ります。康太はわざと舞子がいる場所で話します。そのほうがドッキリ的には受けるだろうと考えたからと言っています。従業員は舞子に逮捕状が出ていると言います。自宅から舞子の唾液のついた吸引器が発見されたからと慌てています。
そして最後は舞子の一人称視点です。
男(康太…)が警察が来たと言います。そして男は「俺、行ってきます」と言い、薪を一本持って出ていきます。
シュールな結末、果たして映画は?
この後のシーンはかなりシュールです。これをうまく活かせればいい映画になる可能性があるかも知れません。舞子がカーテンで顔を隠すように見る外の景色が描写されます。穏やかに近づく警官たちに男は「なんの用だ!」と挑戦的です。そして男と警官たちの格闘が始まります。男は「舞子さんは何もやってない! 何もやってない!」と叫んでいます。
そして舞子には男が言った言葉がよみがえってきます。
俺、ファンだから。昔からのファンだから。漫画誌のグラビアでデビューしたときからファンで、最初の写真集も買ったし、CD も全部持ってるし、……なんていうか、俺の人生なんて大したことない人生ですけど、それでもその要所要所っていうか、嬉しかったり、悲しかったり、そんないろんなときに、ずっと、あなたのファンだったから
舞子には自分でも何が起きたかわからないものが込み上げてきて、何の涙なのかわからない、とても暖かいなにかが、舞子の心に満ちてきて、私の心はずっと冷たかったのだと気づいて、涙を流します。
男は警官に追われて逃げ回っています。
映画が楽しみだ
さて、これをどう映画化しているのでしょう。楽しみです。
伊藤ちひろ監督、映画として特別出来がいいわけではありませんが(ゴメン…)、「サイド バイ サイド 隣にいる人」を意外と気に入っており、その際、「窮鼠はチーズの夢を見る」の脚本の堀泉杏さんも伊藤ちひろさんの別名だと知った方です。
このつまらない小説(ゴメン…)をどうやって映画化したのでしょう。楽しみです。それに、一体誰がなにゆえこれを映画化しようとしたのか、それにも興味があります。

