「ニンフォマニアック」を見終えてネットをしていましたら、「ユリイカ」がラース・フォン・トリアー特集をやっていることを発見、早速読んでみました。
ユリイカ 2014年10月号 特集=ラース・フォン・トリアー 『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』から『ドッグヴィル』、そして『ニンフォマニアック』へ
- 作者: ラース・フォン・トリアー,シャルロット・ゲンズブール,ステラン・スカルスガルド,園子温
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2014/09/27
- メディア: ムック
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インタビューが面白いです。
シャルロット・ゲンズブール
シャルロット・ゲンズブールのインタビューは公式のものですから、すでにネット上に一部散見するものですが、 「脚本を読んだ後はどう思いましたか?」の問いに
興奮したし驚いた。どんな脚本か予想していなかったから、本当に驚いたの。もちろん、怖じ気づいたわ。ジョーを二人の女優が演じるのは分かっていたけれど、私の出番がいつか分からなかった。
と答えています。 「怖じ気づいた」との言葉が印象的ですが、逆に考えれば、多分シャルロットが怖じ気づいたと思われる部分の多くを演じたステイシー・マーティンのすごさが分かります。この俳優さん、モデル出身なんでしょうか、ミュウミュウ(MIU MIU)の2014年秋冬キャンペーンに抜擢とあります。
で、シャルロットですが、他にも次のような答があり、かなりセックスシーンに関して神経質になっていたんじゃないかと思わせます。
俳優たちが実際にセックスするのではないことをはっきりさせる必要があった。
ただ一方で、
(ラースが)私に尋ねたの。もし私がセックスしていると人々が信じたとして、私自身の道徳感の限界はどこにあるのかと。私は問題ないと思った。自分がしたことをちゃんと分かってさえいればね。
と言っています。
結果、誰も実際にセックスしているなんて思うような映画ではないのですが、映画俳優ってのはつくづく大変な仕事だと思います。撮影している時でさえ、最終的に自分がどのように見せられるのか、つまり編集などの後処理によって何とでもなってしまう恐ろしさを感じながら演じているということです。
ですから、俳優の良い演技を引き出すのは、最終的には監督と俳優の信頼関係によるということなのだと思います。
ステラン・スカルスガルド
こちらは高野裕子さんという方の単独インタビューなんでしょうか?
インタビュー全編にラースとの互いの信頼感が感じられます。
ラースの映画に出るのが好きなのは、撮影現場を取り巻く状況が好きだからだよ。仕事と言えないくらい。二人の子供がお砂遊びをしているみたいなんだ。すごくリラックスしていて、気取りが全くない。楽しいことだらけだ。
ラース・フォン・トリアー監督の撮影方法はかなり自由なようで、セリフにも自由度があって、リハーサルなし、違った演技を試したければ何度やってもいいなどと語っています。もともとは何から何まで自分で決めていたが、「奇跡の海」あたりから俳優にも自由にさせるようになったようです。世界的に評価されるようになった時期と合致していますね。
この映画だけではなく、「奇跡の海」でのエミリー・ワトソン、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でのビョーク、「ドッグヴィル」でのニコール・キッドマンのことも語っています。
で、こんなことも言っています。まあ当たり前なんですが、俳優としての懐の深さみたいなものを感じさせる言葉です。
良い映画をつくろうとする場合、アイデアはひとつの世界から出てこなくてはならない。(略)それは監督のものでなければならない。もちろん提案したりするのは自由だよ、ただ決定権を持っているのは監督だ。
映画については、シャルロット、ステラン共に「ラースが自分自身を映画の中の女性に投影している」と言っていますね。
ラース・フォン・トリアー監督
ラース・フォン・トリアー監督は、2011年の例のナチスに関する発言以降メディアからの取材は受けていないようです。ここに収録されているのは、2009年のカンヌ「アンチクライスト」上映後のもの、そして2011年の「メランコリア」上映後にあった例の発言後のものが収録されています。
当時、ああやっちゃいましたかくらいの印象しか持っていませんでしたが、たとえ誤解があるにせよヨーロッパでの「ヒトラーを理解できる」等の発言の重さは我々の想像をはるかに超えるもののようです。
麻生太郎が憲法改正について、ナチスがワイマール憲法をいつの間にかナチス憲法に変えた(これは正しくないが)ことをあげて「あの(ナチスの)手口学んだらどうかね」と講演したのが2013年の7月、未だ麻生くんは副総理格の財務大臣の椅子に座っています。
いずれにしても、これを読めば、発言の不適切度合いはなんとも言えませんがラースの言いたかったことは分かります。
インタビューは他に、「アンチクライスト」後のウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブール、「メランコリア」後のキルスティン・ダンストのものが掲載されています。