朝比奈秋著『植物少女』

2024.09.18

今年2024年上半期の芥川賞は朝比奈秋さんの『サンショウウオの四十九日』と松永K三蔵さんの『バリ山行』の二作品が受賞されました。そのうちのおひとり朝比奈秋さんの『植物少女』です。『サンショウウオの四十九日』がデビュー5作目で、この『植物少女』が3作目です。昨年2023年の三島由紀夫賞を受賞しています。年2作くらいのペースで書かれていますね。医師ゆえの視点が新鮮…...

市川沙央著『ハンチバック』

2024.08.29

2023年上半期の芥川賞受賞作です。著者が先天性ミオパチーという難病による症候性側弯症を患う重度障害者ということもあるのか、メディアでもかなり取り上げられていますので(いましたので…)芥川賞に興味のない方でも目にされたことがあるのではないかと思います。読書文化のマチズモを憎んでいた……とリードを書いたのは芥川賞受賞後すぐですので、もう1年前になります。なぜか...

平野啓一郎著『本心』

2024.08.08

平野啓一郎さんの『本心』が石井裕也さんの監督で映画化されると知り読んでみました。「自由死」のある世界…時代設定は2040年代初め、近未来の日本です。主人公の石川朔也は29歳、母子家庭で育ち、母親をなくした半年後から始まります。その時代、「自由死」が合法化されています。「自由死」の合法化ってかなり適当な言葉ですが、実際、小説の中でもそのこと(死において...

吉田修一著『愛に乱暴』感想、レビュー、書評、ネタバレ

2024.06.29

映画「湖の女たち」を見た際だったと思いますが、その『湖の女たち』だけではなく『国宝』『愛に乱暴』と続けざまに吉田修一さんの小説が映画化されることを知り、しかしながら『愛に乱暴』という著作があることを知らなかったものですから早速読んでみました。愛に乱暴(上)(新潮文庫)吉田修一 (著)形式: Kindle版第 2 巻 (全 2 冊)Amazon昼メロ風ドロドロ愛憎...

九段理江著『東京都同情塔』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2024.05.06

2023年下半期芥川賞受賞作『東京都同情塔』です。著者は九段理江さん、先にデビュー作『悪い音楽』が併載された単行本第一作『Schoolgirl』を読んでいます。日本人が日本語を捨てたがっている…その『Schoolgirl』のレビューには「言葉が溢れ出てくるような文章でスピード感」があると書いたのですが、この芥川賞受賞作からも書き始めたら止まらなくなるんじゃな...

ガブリエル・ブレア著『射精責任』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2024.04.14

『射精責任』、インパクトのあるタイトルですし、本編のつくりもセンセーショナルな本です。センセーションを狙いすぎていないか…表紙は言わずもがなですが、章タイトルを二色刷りにしたり、そのレイアウトからもアジテーションぽさがにじみ出ています。原著ではどうなのかなと思い、「Ejaculate Responsibly」でイメージ検索してみましたら同じよ...

九段理江著『Schoolgirl』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2024.03.02

『東京都同情塔』で2023年下半期の芥川賞を受賞した九段理江さんの単行本化一作目『Schoolgirl』です。2021年下半期の芥川賞候補作となったその表題作に、デビュー作にして文學界新人賞を受賞した『悪い音楽』が併載されています。音楽的リズムで言葉がほとばしる…デビュー作の『悪い音楽』から受賞つづきのようで、この『Schoolgirl』も2023年の芸術選...

高山羽根子『首里の馬』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2024.01.27

2020年上半期の芥川賞受賞作です。やっと読み終わりました(笑)。実は、この『首里の馬』、図書館で借りるのは3度めです。読みづらいとかそういったことではなく、たまたまこの本を読み始めると他に優先的に読まなくてはいけない本が発生して後回しになってしまい、返却日が来てしまうという繰り返しでした。芥川賞にしてはちょっと異質…それだけ、どうしても今読みたいと...

山上徹也と日本の「失われた30年」感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.12.02

日々閑々,

安倍晋三氏が奈良市の大和西大寺駅近くで選挙演説中に銃撃され死亡したのは2022年7月8日、事件からまだ1年5ヶ月くらいです。なのに、なんだか遠い昔の話のような感じさえします。事件に関する報道が少なくないでしょうか。よもや安倍晋三氏のことには触れちゃいけないことになっていないとは思いますが、どうなんでしょう。山上徹也と日本の「失われた30年」この本は、あとがきによ...

遠野遥著『教育』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.10.29

2020年に『破局』で芥川賞を受賞した遠野遥さんの受賞後一作目の『教育』です。すでに二作目の『浮遊』も読んでいます。現実世界と接点のない言葉、文章…受賞作の『破局』では今どきの才能を感じると書きましたが、その印象もかなり変わりつつあります。この『教育』は物語(があるとすれば…)は違いますがほぼ『破局』と同じです。現実世界と接点のない言葉が最初から最後まで...

遠野遥著『浮遊』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.09.01

芥川賞受賞作の『破局』を読んで「今どきの才能」を感じると書いた遠野遥さんの芥川賞受賞後二作目『浮遊』です。実在感がないという意味では浮遊しているが…この小説も「気持ち悪い」ですね。気持ち悪いというのは、『破局』を読みながら感じたことで、その書評には主人公である「私」の人物造形が気持ち悪いのです。「私」という人物には、実体感と言いますか生命感が感...

遠野遥著『破局』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.08.04

2020年上半期芥川賞受賞作です。面白いですし、新しさ、言い換えれば今どきの才能ともいえるものを感じます。気持ち悪い…読み終えた直後の読後感は「気持ち悪い」です。内容じゃありません。主人公である「私」の人物造形が気持ち悪いのです。「私」という人物には、実体感と言いますか生命感が感じられません。「私」は鍛えられた肉体を持ち、正しくあらねばならないと考えて行...

河林満著『渇水』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.07.07

映画「渇水」を見て Amazon でポチっとしたその原作小説です。原作は映画向きじゃないびっくりするくらい短い小説です。原稿用紙100枚くらいじゃないでしょうか。他に「海辺のひかり」と「千年の通夜」の二編が収録されています。映画はその短さにいろんなものを創作して膨らませてあります。いや、膨らませているわけではなく、原作にないエピソードを加えて違うもの...

佐藤厚志著『荒れ地の家族』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.06.27

2022年下半期芥川賞受賞作です。単行本化第二作目での受賞です。前作の『象の皮膚』はアトピー性皮膚炎に苦しむ女性の話で、語り口が軽妙で面白い作品だったのですが、この『荒れ地の家族』は打って変わってかなり思っ苦しい作品です。震災から10年あまり、いいことはひとつもない東日本大震災から10年あまり、宮城県亘理町で暮らす40歳の植木職人、坂井祐治の思いが描かれていく話...

宮下奈都著『静かな雨』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.05.14

映画を見てその原作を読んでみようと思うことは多々あるのですが、ついつい忘れてしまうことも多く、この『静かな雨』もそのひとつで、図書館で目にし、ああそうだったと借りた本です。映画は原作とまるで違う…映画を見たのは2年ちょっと前です。すでに細かいところは忘れていますが、それでもかなり印象に残った映画ですので、原作を読んで驚きました。https://movi...

高瀬隼子著『水たまりで息をする』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.04.26

『おいしいごはんが食べられますように』で昨年2022年上半期の芥川賞を受賞した高瀬隼子さんの一作前の小説です。この作品も芥川賞の候補になっており、むしろこれで受賞すべきだったのはないかと思うくらい面白いです。夫婦間サスペンス…?ある日夫が風呂に入らなくなり、それが1週間続き、ひと月続き、そしてまったく入らなくなるという、その夫を妻の側から描いている小説です。...

ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.04.08

昨年2022年の11月、この小説が原作の映画を見て興味を持ち、翻訳ものは好んで読むことはないのですが頑張りました。500ページの厚さ3cmもあるかという本です。映画は原作にかなり忠実驚くくらい映画は原作に忠実に作られていました。日本の脚本家なんて原作のテーマや人物像を自分の思うように勝手に変えてしまうんですが(笑)、映画「ザリガニの鳴くところ」の脚本ルー...

佐藤厚志著『象の皮膚』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.03.20

2022年下半期の芥川賞は井戸川射子さんの『この世の喜びよ』と佐藤厚志さんの『荒地の家族』でした。その佐藤厚志さんの単行本化第一作の『象の皮膚」です。面白かったです。井戸川射子著『この世の喜びよ』その前に、芥川賞受賞作の井戸川射子さんの『この世の喜び」ですが、実は、読み始めてはみたものの挫折です。二度の挑戦に二度とも数ページあたりから先に進めません。どう...

佐藤泰志著『夜、鳥たちが啼く』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.03.08

映画,

昨年の暮に映画「夜、鳥たちが啼く」を見て、佐藤泰志さんの著作は全て読んだと思っていたのにこのタイトルには記憶がよみがえらず、それでも映画のレビューに「佐藤泰志さんはこんな男女は書きません!」と断言した手前、収録されている『大きなハードルと小さなハードル』を借りて再度読んでみました。佐藤泰志関連記事佐藤泰志さんは映画のような男女を書いていません!何度で...

川上未映子著『すべて真夜中の恋人たち』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2023.02.23

川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』が全米批評家協会賞の最終候補に選ばれたとのニュースを目にし、早速読んでみました。川上さんの著作は『へヴン』と『乳と卵』を読んでいますが、もう6年前です。その後は木崎みつ子さんの『コンジュジ』が2020年のすばる文学賞を受賞したときに、川上さんが選者でありながらハイテンションで大絶賛していることにびっくりしたくらいです。...