「日本の会社で働く全ての女性に贈る 働くこと、愛すること、継続すること。」とのコピーがつく、現パナソニック(株)執行役員であり、ジャズピアニストとしてビクターから CDも出している小川理子(みちこ)さんの松下電器入社から現在に至る自らの成功体験本です。
なかなかすごい本で、誰にでも成功体験があればその裏には失敗もあるだろうと想像はしますが、この小川さんにはあるいは失敗なんてなかったんじゃないのかと思わせるような本です。
それだけに、「日本の会社で働く全ての女性」どころか、性別関係なく、おそらくその点においては誰の役にも立たない本だろうと思います(笑)。
これ、嫌味でもなんでもなく、パナソニック(松下電器)っていい会社なんだね、小川さんってすごい人なんだねということは分かりますが、そもそも他人の成功体験を読んでそれがその人の成功に影響する人は何をやっても成功しますよ。
まあそれは置いておいて、おそらく小川さんがこの本で伝えたいと思われたことは、
人には誰にでも大切な「音の記憶」がある。
私の場合はまだ母親のお腹の中にいた時の「音の記憶」だ。
母は、ある特定の曲を歌うと、まだ赤ちゃんだった私が目に涙をいっぱいためて反応するのに気がついたそうだ。
それは『赤い靴』と『春よ来い』だった。
と書かれているあたりだと思います。
入社時の松下電器産業音響研究所配属から現在に至るまで、そうした「音の記憶」を呼び覚ますような音響空間を目指して、「パナカプセル」「ツインロードホーンスピーカー」「オーディオ・フラット・パネル」などの開発・製品化に関わり、2014年のテクニクスブランド復活での陣頭指揮に当たられたのだと思います。
特にテクニクス復活に向けたフラッグシップモデル「R1 シリーズ」やターンテーブル「SL-1200」開発時には、「音決済」という言葉で語られていましたが、たとえば、
具体的な言葉で要望を伝えた。「この曲のクラリネットの音を注意深く聞いてほしい」「ここのテナーサックスの音を太くしてほしい」、あるいは「この演奏者だったらこういう音が出るはずだ」と。
と、技術陣に妥協することなく要望を出し、
私の理想の音。それは、アンプが、プレーヤーが、スピーカーがそれ自体で、”音楽をして” いる。躍動感を持って、生きている。その生きている音が鳴らないとダメなのだ。オーディオというのは再現芸術だが、生きている人間が奏でる音、そのエネルギーが感じられなければ、聴いている人には何も伝わらない。
と、人の「音の記憶」を呼び覚ます音響空間の実現を目指されたようです。
確かに音や音楽には、それを聴いたその瞬間だけではなく、その時期考えていたことや思いまでをも含めた情景が映像として張り付いていることが多く、この曲を聞くと昔の何々を思い出すといったことは誰にでもあり、あるいは物心つく前の、それこそ母親の胎内にいる時に感じた振動が何かに結びついて記憶されていることもあり得ることかも知れません。
現在は、何であれ常に映像が先行していますので、こうした感覚もなくなっていくのかもしれませんね。
ちなみに私も過去にはオーディオに興味を持っていた時期があり、プレーヤーはトーレンス、スピーカーは JBL、アンプはラックスの真空管のものでした。
ただ、今思い返してみますと、トーレンスに JBLの組み合わせが良い選択であったかは微妙なところですね(笑)。