木俣正剛著『文春の流儀』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.06.27

著者の木俣正剛さんは文藝春秋社に40年間勤められ、その間に『文藝春秋』や『週刊文春』の編集長を担当され、2018年の退社後は岐阜女子大学文化創造学部の教授として教鞭をとられ、現在は同大学の副学長の職にある方です。その木俣さんの文春時代の回想録です。 文春の流儀 (単行本)作者:木俣 正剛中央公論新社Amazon文春砲の内幕本じゃないよ週刊文春はもちろんのこと、文藝春秋で...

木崎みつ子著『コンジュジ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.06.17

昨年2020年の「すばる文学賞」受賞作であり、2020年下半期の「芥川賞」候補作です。その「芥川賞」の受賞作は、宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』でした。コンジュジ (集英社文芸単行本)作者:木崎みつ子集英社Amazon川上未映子さん超絶賛 客観的に語られるイマジナリーフレンド人物に実在感がないリアンとの出会いこの小説がリアンの伝記本のようベラさんのことも知りたい...

柚月裕子著『孤狼の血』(ネタバレ)アウトロー刑事対暴力団&警察組織の任侠小説

2021.05.27

別ブログで映画のレビューを書いていますが、「娼年」あたりから松坂桃李さんへの注目度が上がっており、「孤狼の血 LEVEL2」公開前に予習をしておこうと「孤狼の血」をDVDで見たところ、何だ、この下品な話(映画)は?! と驚いたものですから原作を読んでみました。原作はいたってまともなエンターテインメント小説でした。孤狼の血 「孤狼の血」シリーズ (角川文庫)作者:柚月裕子発売日: 2...

吉川惣司 矢島道子著『メアリー・アニングの冒険』

2021.05.16

映画,

映画「アンモナイトの目覚め」を見て知ったメアリー・アニングさん、映画でも一応化石収集家として描かれてはいますが、テーマは一貫してレズビアンというセクシュアリティを追った映画になっていました。実在した人物なのにこんな一面的な描き方でいいのかなあと疑問が生まれ、いろいろググっていましたら「メアリー・アニングの冒険」という伝記本があり、なんと! それも翻訳ではなく日本で出版されているものでした。...

村田沙耶香著『コンビニ人間』この小説に批判性はあるのだろうか…

2021.04.20

5年前の芥川賞受賞作をなぜ今頃ということなんですが、受賞時、それ以前に「タダイマトビラ」という作品を読んおり、その書き出しには惹きつけるものがありながら、結局、観念世界から一歩も出ることなく、率直なところかなり幼い印象で終わってしまったことからスルーしてしまったということです。で、今回手に取ったのは、ネット記事か何かで村田沙耶香さんが海外でも注目されているという記事を読んだ記憶があり、え?なぜだ...

宇佐見りん著『推し、燃ゆ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.04.08

言わずと知れた2020年下半期の芥川賞受賞作です。初回、文藝春秋で読み始めるも挫折、たまたま図書館に予約してあった『かか』を無理かなと思いつつも読み始めたところその才能にびっくり! 再度この『推し、燃ゆ」に挑戦したところ、読み進んでみれば、20年ほど前の同じく芥川賞受賞作『蛇にピアス』金原ひとみさん以来のインパクトでした。推し、燃ゆ作者:宇佐見りん発売日: 2020/09/10メ...

チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』感想・レビュー・書評

2021.03.10

映画より小説を読むべき最後の「2016年」の章がこの小説の肝キム・ジヨンの33年間女性が働きやすい国ランキング映画より小説を読むべき半年くらい前に見た映画「82年生まれ、キム・ジヨン」の原作を読みました。リンク先のレビューに書いたことは間違っていなかったです。そのレビューに書いていることは、キム・ジヨンが憑依状態になるまでの過去がエピソードとしてしか描かれておらず、キム・ジヨンの追...

深沢潮著『海を抱いて月に眠る』在日二世が亡き父の手記から自らのルーツを再認識する

2021.02.16

在日二世の主人公が父親の遺品である手記を読み、それまで知らなかった父の過去を知ることで自身のルーツを再認識するという物語です。その手記には戦後日本にわたってきた父親が祖国に戻ることを胸に歩んできた30年の歴史が刻まれています。それはつまり、朝鮮戦争、南北分断、軍事政権時代、そして民主化という朝鮮半島(韓国)の戦後の歴史(のさわり)を知ることでもあります。深沢潮著『海を抱いて月に眠る』主...

吉田修一著『湖の女たち』(ネタバレ)731部隊、やまゆり園、湖東記念病院

2021.01.11

このところの吉田修一さんは連載ものの単行本化が多いように感じます。これも週刊新潮に2018年8月から1年くらいにわたって連載されていたとのことです。それにしても連載ものって、書く人も読む人もよく集中力が持続するものだと感心します。吉田修一著『湖の女たち』読む人はともかく、この小説では書く人、吉田修一さんは集中していないでしょう(笑)。むちゃくちゃ散漫な小説です。一体この物語はどこへ向か...

磯崎憲一郎著『日本蒙昧前史』感想・レビュー・書評

2020.11.17

『日本蒙昧前史』学術書のようなタイトルの小説です。それに「蒙昧」という言葉自体も無知蒙昧などと人格否定にも使われそうな言葉ですので、あまり日常的に目にしたり耳にしたりする言葉ではありません。さらに「前史」として描かれる時代が1970年くらいから1985年あたりまでの昭和末期ということになれば、その後やってくる平成時代、そして今現在が「蒙昧」の時代ということになるのでしょうか。日本蒙昧前史...

藤野可織著『ピエタとトランジ<完全版>』80歳の女子高生が「死ねよ」「お前が死ねよ」と…

2020.09.20

読み始めてしばらくは、何だ、これ、ラノベか?! などと思いましたが、読み終わってみれば素敵な小説でした。人類の滅亡を女性二人の一生で描く近未来小説であり、荒野にただひとり取り残されたようなアポカリプス感漂う物語です。ピエタとトランジ<完全版>作者:藤野可織ピエタとトランジピエタとトランジ発売日: 2020/03/11メディア: Kindle版 <完全版>とあるのは、...

千葉雅也著『デッドライン』性の境界線を思索する

2020.09.02

章番号のないプロローグのような導入は男と男の性愛の場、映画では同性の恋愛ものも結構見ますが、ここでの描写は恋愛感情を抜きにしたいわゆる(有料)ハッテンバと言われる場所です。そこでの主人公の〇〇の行動を追う描写から始まります。デッドライン作者:千葉雅也発売日: 2019/11/29メディア: Kindle版 千葉雅也著『デッドライン』〇〇としたのは、実際にこの小説...

金城一紀著『GO』やっぱり映画より原作のほうが面白い

2020.07.22

なぜか20年前の直木賞受賞作を読むことになりました。面白かったです。GO (角川文庫)作者:金城 一紀発売日: 2012/10/01メディア: Kindle版 他の本も読んでみようかと著作リストを見てもあまり小説は書いていないんですね。テレビドラマの脚本の方へ進んだということでしょうか。この『GO』、今さら私が言うまでもなく窪塚洋介さんと柴咲コウさんの主演で直木賞受...

小泉今日子著『黄色いマンション 黒い猫』

2020.06.25

日々閑々,

黄色いマンション 黒い猫 (Switch library)作者:小泉今日子発売日: 2016/04/15メディア: 単行本 小泉今日子さん。あらためて考えてみれば、「トウキョウソナタ」や「ふきげんな過去」も見ているわけですから、もうとっくに「キョンキョン」や「なんてったってアイドル」のイメージは消えていいはずですが、不思議なものでインプットされた初期イメージを書き換える...

井上荒野著『あちらにいる鬼』父親讃歌、あるいは男をめぐる女の悲劇

2020.04.21

面白かったんですが、そんなに井上光晴さんってのは魅力的な人だったの? って聞きたくなるような小説です(笑)。あちらにいる鬼作者:井上 荒野発売日: 2019/02/07メディア: 単行本 井上光晴さんと瀬戸内寂聴さんが不倫関係になる1966年あたりから、その関係を精算するために寂聴さんが出家する1973年を経て、1992年に光晴氏が癌で亡くなり、そして2014年に母親が...

沼田真佑著『影裏』画鋲で留められた電光影裏斬春風の模造紙

2020.03.02

沼田真佑著『影裏』映画の印象があまり良くなく、原作はどんなものかと読みました。2017年上半期の芥川賞を受賞しています。影裏 (文春文庫)作者:真佑, 沼田発売日: 2019/09/03メディア: 文庫 映画との関連で言えば、この小説を、書かれていることそのままに映像化しても何も生まれないだろうと思います。あえて重要なことを書かないことで成立している小説です。...

宮下奈都著『静かな雨』映画とはまた違った小説の世界

2020.02.22

宮下奈都著『静かな雨』映画を見て興味を持ち読んだんですが、 随分違いますね。映画の感想はこちら。随分違うというよりもまったく異なった作品になっていると言ってもいいくらいです。まず人物像が全然違います。映画の行助はかなり寡黙な人物ですが、小説ではよく喋りますし朗らかです。もちろん小説は行助の一人称で語られますので心の声も活字になるということもありますが、それにしても映画の行助(仲野太...

湊かなえ著『落日』頭の中で考えた物語は人間を描けない

2020.01.05

湊かなえ著『落日』新聞の書評で興味を持ち読んだ本です。その書評がネットにありました。東京新聞:落日 湊(みなと)かなえ著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)湊かなえの新たなる代表作、今年最高の衝撃&感動作。重い十字架を背負って生きる人々の心の叫びと希望の灯。“落日”の向こうに見える未来とは!?入魂の書き下ろしミステリー長篇。新人脚本家の甲斐千尋は、新進...

金原ひとみ著『アタラクシア』

2019.11.09

アタラクシア|金原ひとみ|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー金原ひとみさん、10年ぶりに読みました。前回読んだのはいつだったかとサイト内を検索しましたら『TRIP TRAP/トリップ・トラップ』でした。その時も久しぶりに読んだと書いています。この作家の魅力はほとばしる情がそのまま言葉になって出てくるその勢いある文章です。デビューから15年、まったくその熱さには衰えがありま...

白石一文著『火口のふたり』映画の原作本

2019.09.26

映画,

映画「火口のふたり」の原作本です。映画のレビューはこちらです。 この映画を見るまで白石一文さんを知らなかったのですが直木賞作家なんですね。物語としては、映画はほぼ原作通りに進んでいます。ただ、映画では言葉だけの賢治の背景にかなり嘘っぽさを感じていたんですが、さすがに小説ともなりますとその記述も多く、少しは賢治の思いも伝わってくるようにはなっています。火口のふたり (河出文庫)作...