別ブログで映画のレビューを書いていますが、「娼年」あたりから松坂桃李さんへの注目度が上がっており、「孤狼の血 LEVEL2」公開前に予習をしておこうと「孤狼の血」をDVDで見たところ、何だ、この下品な話(映画)は?! と驚いたものですから原作を読んでみました。
原作はいたってまともなエンターテインメント小説でした。
下品さは映画のもの
原作には暴力描写はありません。下品な対女性描写もありません。
この原作でなぜ映画はあんなにも下品になるのか?
不思議なんですが、脚本の池上純哉さんが1970年生まれ、監督の白石和彌さんが1974年生まれというところからむちゃくちゃ強引に持っていけば、バブル期に青春を過ごした人たちの過去(昭和)への郷愁じゃないかと思いますし、今の時代のポリコレやコンプライアンスといったものを抑圧的に感じているのかもしれません。
ただ、映画が原作通りではないというのは契約(あるとすれば)次第でしょうから特にどうということはありませんし、批判しようということでもありません。
それに映画そのものは役所広司さんと松坂桃季さんでもっています。いくら大上が暴力的で下品だとしても役所広司さん本人からにじみ出るキャラが心優しいおじさんですので下品さも薄められています。松坂桃李さんも役所さんと同じようにいろいろな役柄をこなす俳優さんですが基本は優しいお兄さんのイメージです。
映画のレビューはこちらです。
原作の主題は「個人対組織」、まずは暴力団
今さらあらすじを書くこともありませんのでAmazonからさわりを引用しておきます。
昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく―。(孤狼の血 「孤狼の血」シリーズ (角川文庫))
大上は刑事ですが、一匹狼のアウトロー刑事です。
原作の大上は映画ほど無茶苦茶はしませんし、マル暴の同僚の信頼もあり、頼りにされている人物です。公務員的刑事ではなく、いい悪いは別にして自分で考え、その信念で行動する人物です。当然組織からは浮いた存在になります。
その大上が所属する呉原東署管内には暴力団の対立があります。
主に登場してくるのは、尾谷組と五十子会、加古村組ですが、この相関図を見ますと確かに尾谷組は潰されそうです。
それゆえ大上は尾谷組に肩入れしています。「任侠」が大上の信念であり、少なくとも尾谷組には任侠精神は残っていると大上は考えているのでしょう。それに対して五十子会の組長五十子は力でのし上がろうという人物で、実際兄貴分を殺害して今の地位(というのも変だが)についています。
大上はそうした裏事情を知り尽くしており、五十子会に対しても抑えが効くということで警察内部でも特異なポジションを得ており一匹狼的な行動も許されるということです。
ですので、この小説は警察対暴力団の戦いを描いた内容にみえますが、本質的には大上対五十子会、アウロロー刑事対暴力団、つまり個人対組織の戦いとなっています。もちろん戦いと言っても警察ですのでドンパチではなく、五十子会の犯罪と思われる上早稲殺害(あらすじの「暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件」)を捜査で暴いていくということです。いずれにしても、一匹狼対暴力団の戦いという意味では昔からのヤクザ小説(知らないけど)のパターンの変形バージョンだと思います。
ただ、残念ながら、この戦いは一匹狼の大上の死で終わります。
失踪していた上早稲の死体もあがり、それが五十子会傘下の加古村組の仕業とわかり一斉検挙だ!となったところで思わぬことが起き、大上は謹慎処分となってしまいます。新聞記者が大上と暴力団の癒着ネタを探り始め警察上層部がスキャンダルを恐れたのです。
加古村組一斉検挙ってどうなったの?
この加古村組の一斉検挙の件、映画でもそうでしたが、原作でも有耶無耶になっていませんか?
読んでおいて、…か? っていうのもなんですが、実は面倒になって(ペコリ)かなり読み飛ばしてしまったのです。ただ、今パラパラとページを繰ってみてもなんだかはっきりしません。尾谷組と五十子会の抗争勃発かという方へ話のポイントがすり替わってしまっています。
とにかく、大上は謹慎中ではあるのですが、両者の一触即発状態を抑えようと最後の手を使います。五十子の過去の悪事を使って脅しをかけたのです。で、殺されてしまいます。
主役がいなくなってどうなるの? と思いますが、ちゃんと跡継ぎがいました。日岡です。
どんでん返し的結末、個人対警察組織
大上の死は事故死として処理されます。ちょっと強引すぎる展開だとは思いますが、警察上層部がスキャンダルを恐れたということでしょう。
日岡は大上が五十子に会いに行っていることを知っていますので不信感を持ち始めます。そんな日岡の手元に大上が残したファイルが渡ります。そこには呉原東署だけではなく県警上層部の悪事や不祥事が記されているのです。
日岡が県警の監察官に呼ばれます。大上は生前、監察が自分を調べているらしいとかスパイを送り込んだらしいなどと話していましたが、実は日岡がそのスパイだったのです。
日岡は監察官に日誌を渡します。監察官は、何だ、この日誌は?! と怒ります。日誌は大上の行動を記したものですが、肝心なところが黒塗りになっているのです。
実はこの小説、各章の冒頭が「日誌。昭和六十三年◯月◯日……」で始まり、途中何か所かが削除され「二行削除」などとなっているのです。つまり、この小説は、スパイとして送り込まれた日岡が大上の行動を監視しているという作りになっているということです。そして、日岡は大上と行動をともにするうちに次第に大上に心酔していき、大上ファイルは日岡を変える決定的なものだったということです。
監察官はあらためて出し直せと命じます。また、大上は個人の記録ファイルを持っているらしいがそれは見つかったか? と尋ねます。日岡はなかったと答えその場を去ろうとします。監察官は、日誌を出し直せ、さもなくば交番勤務だぞ! と脅します。日岡は、大上ファイルに記されていた監察官の悪事(スキャンダル)をそれとわかるようにつぶやきます。
その後に暴力団の抗争経緯が年表で記載されています。
そして、日岡は実際に県北の駐在所に飛ばされています。
なお、映画では大上の過去にまったく触れていませんでしたが、原作には、妻子を事故で失っており、その子どもの名前が日岡と同じ「秀一」だったというエピソードが語られています。
ということで、映画を見ていますので飛ばし読みしてしまいましたが、見ていなければ結構読みごたえのなる小説だと思います。この『孤狼の血』には『暴虎の牙』と『凶犬の眼』という続編があるらしく、三部作で完結となっています。
ただ、映画「孤狼の血 LEVEL2」はオリジナルストーリーらしく、おそらく、また暴力とエロさを売りにするのでしょう。
でも松坂桃李さんですのでなんとか見られる映画にはしてくれるでしょう(笑)。