名古屋では、まもなく、今週末からだったと思うが、公開される予定の「海炭市叙景」を見るに先だって、原作を読んでいる。残り2,3章(正確には、章ではなく節)、今日中には読み終えることになりそうだ。
第1章第1節の「まだ若い廃墟」は、かなり印象的だ。炭鉱を解雇された失業中の兄と妹が、正月、初日の出を見るために、わずか389メートルだが、山に登る。行きはロープウェイ、しかし、帰りは、お金がないために、妹だけロープウェイに乗せて、兄は歩いて下りる。外は雪である。そして、妹は、戻らない兄を、麓で一日中待ち続ける。遭難の不安と無事に戻るだろう期待を胸に抱きながら。
そして、その結末は、第2節「青い空の下の海」の中、全く別の人物の話の中で知らされる。
そうやって読み進むうちに、何か変だ、全ての節が全く違う話ではないか、これはこの兄妹の話ではないのか、と不思議に思い、半ば気づいてはいたのだが、少し情報収集してみると、やはり、短編を1冊にまとめたものらしい。1988年から1990年にかけて、文芸雑誌(何だろう?)に連載された18編を1991年に単行本として発売したもののようだ。とはいっても、全て、海炭市に暮らす寄る辺ない(精神的な意味も含め)人々を主人公に書いており、不思議な統一感を持った連作になっている。
佐藤泰志という作家のことはよく知らなかったが、1990年に41歳で自死を選んでいる。この「海炭市叙景」は、自らが生まれ育った函館市をモデルにした遺作であり、まとめて手を入れる構想があったかどうか分からないが、未完と書いている人もいる。
さて、この小説を、どう映画にしたんだろう? 楽しみだ。