とても分かりやすくて説得力のあるいい本だと思います。
導入ともなっている第一章の冒頭の話がとても示唆に富んでおり面白いです。
1999年3月23日付の東京新聞夕刊にこんな記事が載ったそうです。
三菱化学生命科学研究所の山元大輔さんは、(略)キイロショウジョウバエの突然変異体から、ハエにも「同性愛」や「性同一性障害」があるなど、さまざまな性行動異常を見つけた。異常をもたらす遺伝子は人間にも共通するものがあるという。
山元さんの研究については、お名前や satori(山元さんが名付けたショウジョウバエの突然変異体) でググればより詳しいことが分かりますが、要は、遺伝子のある部分が壊れたショウジョウバエ satori が、ある時、同性愛行動をとることを発見したということのようです。
で、この本で問題にしているのは、同性愛と判断された行動が、雄の場合は「互いのおしりに頭をくっつけようとして輪になってしまう」ということであり、また雌の変異体の場合は「雄をけったり自分の体を曲げたりして、雄を受け入れようとしない」ことだということです。
で、この本の著者は
こうした自然科学的研究の中に潜む前提や枠組みが、文化や社会の領域に存在するイデオロギーの影響を色濃く受けているのではないか(略)
オスのハエの場合、一匹のハエの尻にもう一匹の別のハエが頭部をくっつけて数珠つなぎになるという行為が同性愛的であると見なされているが、それは人間における「アナル・セックス=(男性)同性愛」という想定を含み込んでしまっていないだろうか。
メスのハエの場合には、雄を受け入れようとしないことが同性愛的行動とされているが、そこには人間社会において女は、「男の性的な誘いを常に受け入れる側である」という予断を暗黙の前提として組み込んでしまってはいないか。
と、疑問を投げかけます。
この新聞記事が1999年のものであり、またこの本の出版が2010年ですので、その後この研究がどうなっているのか分かりませんが、この問題は同性愛を考える場合だけではなく、我々人間のある種の思考パターンの問題性を指摘しています。
この本の読みやすさは、こうした視野の広さのようなものが全体を通して感じられるからではないかと思います。同性愛だけではなく、ジェンダーや多様性社会を考える上でも参考になります。
ということで、書き記すべきことはたくさんありますが、読み終えてから随分経っていますので印象に残っている点だけになりますが、もうひとつ「府中青年の家裁判」というものがあったそうです。
この事件を担当された法律事務所のサイトです。ウィキにも「東京都青年の家事件」として掲載されています。
1990年2月、動くゲイとレズビアンの会(アカー)が東京都府中青年の家で合宿利用中に、他団体による差別・嫌がらせを受けました。「青年の家」所長は、嫌がらせに対処するよう要請したアカー側に対して、「都民のコンセンサスを得られていない同性愛者の施設利用は今後お断りする」と発言しました。さらに東京都教育委員会(石川忠雄委員長)は同年4月、「男女は別室に泊まらなければならない」という慣例(男女別室ルール)をたてに同性愛者の宿泊利用を拒否しました。
裁判は、6年後の97年9月に「 動くゲイとレズビアンの会」の勝訴で終わったようですが、このケースは、社会的マジョリティがどのように形成され、いかにマイノリティに対して抑圧的に働き、それを打破するためにはどうすべきかがよく分かります。
ところで、名古屋でも11月1日にレインボーパレードが行われるようです。