芥川賞受賞から1年近く経ちます。受賞後すぐに図書館で予約しておいたのですが、やっと順番が回ってきました。
作者の真面目さがにじみ出ていると感じられる作品です。
情景描写、特に冒頭1,2ページの描写は、文学ぶった言葉の選択や形容が鼻につき、「わ~、力入ってるなあ」と、やや引き気味に読み始めたのですが、主人公徳永の心情の語りや会話文は、長めの文章であっても、日常語が思いのままにリズミカルに出てくるようで、言葉が生き生きとしており、とても読みやすく、よく伝わってきます。
私の中の又吉直樹さんの印象は、テレビもお笑い系やバラエティは全く見ませんので、情報系の番組でたまに目にするインタビューなどから作られたものですが、その印象そのままに、彼本人が思い、口にしている言葉のように感じられます。
もちろん小説ですから、登場人物や出来事には創作があるのでしょうが、でも徳永が漫才や笑いに対して語る思いは、多分、又吉さん本人のものだと思います。
それだけに、次作、一体何が書けるのだろう? と、相当プレッシャーもきつい中、やや不安に感じられなくもありませんが、まあ、人のことですから、書けなきゃ、それで終わり、書ければ、新たな評価がされるということ以外にはないでしょう。
作品の深みという点では、読後、残るものが少なく、ああそうなのと終わってしまい、その意味では、ある個人の、ある状況の表現としては、とても面白いのですが、作者が漫才師という先入観があるのか、どこか漫才のネタのような内容と取れなくもなく、ラストがオチ的にまとめられているのが、その象徴でしょう。
文学作品に昇華させようとするのなら、先輩神谷など消してしまい、漫才師から足を洗った徳永自身の今にもっと深く迫るべきだと思います。
結局のところ、こんな面白い奴、けったいな奴がいましたでは文学にならないのですから。