「森は知っている」「太陽は動かない」と続けざまに吉田作品を読んだせいで、またも「吉田修一」にハマってしまいました。
台湾に日本の新幹線を走らせる。国家的事業に加わった多田春香は、入社4年目で現地でのプロジェクトチームに抜擢される。彼女にはかつて、台湾で忘れられない出会いがあった…。
商社員や整備士、旧制台北高生だった老人に、日本へ渡り建築家となった台湾人。日本と台湾を舞台に、忘れられない思い、途切れなかった信頼など、人と人との確かな心のつながりが描かれた感動の長編。(吉田修一オフィシャルサイト)
台湾の高速鉄道事業を日本の新幹線が受注するかしないかから開業までの8年間が、いくつかの章立て(10章くらいだったかな?)で語られていきます。
と言っても、主に語られるのは新幹線の話ではなく、基本的に台湾を愛する人たちの人間模様です。中心となる人物は、多田春香と劉人豪、安西誠とユキ(台湾人)、葉山勝一郎と中野赳夫(台湾人)、陳威志と張美青の四組です。
人間関係は、このサイトが分かりやすいです。
吉田修一『路(ルウ)』 国を越えた人の絆を描く感動長編|特設サイト|本の話WEB
今ふと思いましたが、それぞれの章に鉄道に関する(だったような…)タイトルがつけられていたのですが、あるいはその章に関連する人間関係や心情が反映されたタイトルだったかもしれません。もう図書館に返却してしまいましたし、検索してもできませんので分かりませんが、結構重要なポイントだったかもしれません。
ああ違うかな…、これ、もともと連載ものでしたね。
連載ものという点で言えば、章が変わるといきなり別の話になってしまうというのも、そのせいでしょう。各章の書き出しは、必ずと言っていいほど、まず情景描写があり、続いて本題に入るというつくりになっていますし、各章の分量がほぼ同じというのも連載ものだからですね。
考えてみれば、吉田修一さんは、連載ものの単行本化というケースがかなり多い印象です。
そのせいかどうかは定かではありませんが、この作品、単行本の物語としてはそれぞれの語りがかなり歯抜けで、もっと語ってよ!という感じもしますが、でも読み進んでいきますと、その行間、ではなく章間が、なぜか読み手の中で補われ、つながってしまうのです。
そのあたりがうまいということなのでしょう。
語られる人間模様は、やはり吉田修一さんらしい青春物語です。
多田春香と劉人豪の物語は、春香が学生時代に旅した台湾でのたった一日の出会いがその後の二人の人生を決めるという話、安西誠とユキの物語は、仕事と家庭のストレスで鬱になった安西が、心優しき馴染みのホステスユキに癒され立ち直る話、葉山勝一郎は現在80代ですが、台湾での青春時代に、親友であった台湾人中野へ告げたひとことを後悔し続け、何十年ぶりかの帰郷で、その自責の念から開放される話、陳威志と張美青の二人は初恋の成就物語と、どの話も、これまで多くの吉田作品の中で描かれてきた切ない青春の恋や友情物語です。
私は、その切なさに、二度ほど涙しました(笑)。
最近は、小説のネタを時事問題から取ることが多いのでしょうか。「太陽は動かない」もそうでしたが、この作品も、時系列もほぼ実際の台湾新幹線と合致しています。何と言いますか、作品作りが機敏といいますか、器用といいますか、実際はどうかは知りませんが、割と楽に作品が生み出せる作家のように感じます。
ということで、戦前の台湾との関係がきれいごと過ぎるようには思いますが、だからこそ何でしょう、日本人としてはとても読みやすく、割と多くの日本人が持っているだろう台湾に対する郷愁のような感情をうまく物語に取り込んだ小説だと思います。
さて次は「怒り」ですかね。