ある意味「成功物語」の本と言えます。
人生の目的を見いだせないでいた青年が、30歳にして一念発起、パン屋になることを決心し、数年の修業を経て独立開業、天然酵母を使ったパン屋を開業して大成功するというお話です。
ただ、大成功と言っても大儲けしたという話ではなく、自分の信念に基づいた人生を送ることができているという意味です。
10代、20代の、自分の将来に迷いのある人には良い指南書ではないかと思います。
渡邉格さん、行動力のある方です。アマゾンに掲載されているプロフィールがこちらです。
1971年生まれ。東京都東大和市出身。23歳のとき、学者の父とともにハンガリーに一年間滞在。農業に興味を持つようになり、千葉大学・園芸学部園芸経済学科に入学。在学中、千葉県三芳村の有機農家で「援農」を体験。「有機農業と地域通貨」をテーマに卒論を書く。卒業後有機野菜の卸売販売会社に就職、そこで妻・麻里子と出会う。31歳のとき、突如パン屋になることを決意。2008年独立して、千葉県いすみ市で「パン屋タルマーリー」を開業。2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故ののち岡山県真庭市に移住を決意。2012年2月、同市勝山で「パン屋タルマーリー」を再オープン
23歳までの空白の何年かの記述も多少あり、確か、結構パンクなバンドやっていた…とか、そんな感じだったように思います。何をしていたにしろ、行動的ではあったのは間違いないでしょう。
また、その青春時代の行動には、あまりはっきり書かれていませんが、父親や家庭環境への反発があったのではないかと想像されます。学者の父親というのはマルクス経済学者なんでしょうか? 様々な意味でですが、人生を左右する大きな影響を受けている印象です。医者であった祖父の話もよく出てきます。
私は、天然や自然のもの、と語られるものにほとんど興味がありませんので、天然酵母や天然発酵については本を読んでくださいとしか言えませんが、興味のある方は面白く読めると思いますし、基本の考え方が参考になるのではないでしょうか。
タイトルにもなっている「腐る経済」とは、自然のものは腐敗するのに、つまり、植物は土にかえり、腐り、そして新しい植物を生むのに、お金は決して減らないし腐らない、腐らないということは自然じゃないということです。
そうした自然の循環を、自分が極める対象である「菌」の話として語っていますので説得力があります。誰にも有無を言わせない「職人」の存在感のような、極めた人、あるいは極めつつある人の力が感じられます。
そうした自身の経験からくる感覚に、マルクス経済学を援用して、利潤を出さない経営、自身が修行時に経験したブラック企業のような劣悪な環境を生まない労働環境を目指したパン屋経営を実践していきます。
今後どうなっていくのかは分かりませんが、渡邉格さんにはある種カリスマ性もあり、周囲にコミュニティが生まれて、カウンター・カルチャー的な存在として現実社会(ちょっと変?)に影響を与えていくのではないかと思います。