紗倉まな著『最低。』

最低。

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瀬々敬久監督「最低。」を見て原作を読みました。 

4人の女性、彩乃桃子美穂あやこを主人公にした短編集なんですが、それぞれ文章力のレベルが異なります。雑誌か何かに連載したものの単行本化なんですかね?

ひとつめの「彩乃」は違和感なく読み進めるのですが、4章目の「あやこ」に至っては、意図的にやっているのか、文章がかなり乱れています。

あやこ」の冒頭、ひとり住まいの知恵46歳が台所にいますと、玄関で物音がします。もしかして空き巣かと箒をつかんで玄関へ向かうさまを「しゃなり、しゃなりと玄関へ歩み寄る」と表現しています。

言葉の持つ意味合いをどう理解しているのつかみかねる箇所がかなりあります。好意的に考えれば、コミック調にしようとしたとも言えますが、そもそも知恵はひとりで喫茶店をやっている身ですので、夕暮れ時に住まいの台所にいる事自体に違和感があります。

細かくツッコミを入れることが目的ではありませんのでひとつの例を挙げるだけにとどめますが、連載ではないにしても、ある程度の期間に書き溜めたものを単行本として出したのかも知れません。

つまり、新しい作品から並んでいるのではないか、いろいろなものを書くうちに、どんどん文章力が上がったのではないかということです。文章力だけではなく、内容や読んでいて見えてくるものも後ろの章ほど未熟な感じがします。

あやこ」は、5,6歳くらいから高校生までの成長期のような内容で、母子三代の因縁のようなものを感じさせつつ、あやこ自身がそうした外からの視線に晒され影響されて成長していく様が描かれています。

つまり、祖母知恵は(多分)未婚の母として孝子を育てますが、孝子は1◯歳の時、ぷいと東京へ出ていってしまい、AV女優などを経て、未婚のままあやこを生み、知恵のもとに舞い戻ってきます。母孝子の生活ぶりが怠惰なこともあり、また AV女優だったとの噂も立ち、あやこはそうした視線を浴びながら育ち、思春期になり男からの視線も感じるようになると、何かしら将来の自分に予感を感じるようになるという話です。

美穂」は、映画では、なぜ自ら AV女優の道を選んだのか全くわからなかった人物ですが、こういうことでした。

主婦の美穂は、5年前から夫とはセックスレスとなっており、夫の帰りを待つだけの日々に生きている実感を感じられず、それをセックスに求めるということです。

書き出しはハプニングバーのシーンから始まります。映画でもそうしたシーンが挿入されていたかも知れませんが、もしそうなら、編集がかなりシャッフルされていましたので見落としたのでしょう。

ただ、映画でわからないと感じたのはそうした理由からだけではなく、美穂に不特定多数とのセックスで満たそうとするほどの枯渇感が感じられなかったことのほうが大きいです。

原作においても、あえて言えば「日々に生きている実感」といったことだろうと書いているだけで、文面では美穂の性的な欲望が全面に出ています。

桃子」は、映画には出てこない人物で、映画でも登場する AVプロダクションの社長兼マネージャー石村と一緒に暮らすことになる AV女優です。この章は、石村の一人称で話が進みますので、桃子の考えていること語られることはなく、つくす女的な存在なんですが、ラストは男と女(というより石村と桃子)の「愛」についての考え方?価値観?みたいなものの違いを(かすかに)感じさせています(が、よく分かりません)。

彩乃」、この章も言葉の選択に気取りが感じられますが、唯一(というのもなんですが…)読めます。

(おそらく高校卒業後でしょう)釧路から東京に出てきた25歳の彩乃が、AV女優の道に進み、淡々と仕事をこなし、そしてある日バーで出会った日比野に恋をする話です。

なぜ唯一読めるかといいますと、なぜ、どうしてという疑問にあえて多くを答えないことで文学になるということだと思います。

映画の感想でも「彩乃(佐々木心音)、この人物を中心に作ればよかったのにと思います。この俳優さん、いいですね。 」と書いているのがちょっと不思議でもあり、なるほどとも思える『最低。』でした。

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