小泉今日子さん。
あらためて考えてみれば、「トウキョウソナタ」や「ふきげんな過去」も見ているわけですから、もうとっくに「キョンキョン」や「なんてったってアイドル」のイメージは消えていいはずですが、不思議なものでインプットされた初期イメージを書き換えるのはなかなか大変です。
が、最近のツイッターでの発言と、そしてこの『黄色いマンション 黒い猫』で完全に「なんてったってアイドル」は消去されました。
私が最初に目にしたツイートは、
人間だから間違えや失敗は誰にでもあるだろう。一生懸命やった結果だったら人はいつか許してくれるかもしれない。でも汚らしい嘘や狡は絶対に許されない。カビだらけのマスクはその汚らしさを具現化したように見えて仕方がない。
https://t.co/8zJhoSTLSV— 株式会社明後日 (@asatte2015) 2020年4月22日
という「アベノマスク」に対するツイートで、何だ!この辛辣で的を得たツイートは!と、そもそも「株式会社明後日」というものも知らずに、誰、このツイート? と調べたのが、この『黄色いマンション 黒い猫』を読もうと思ったきっかけです。
その後、「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートがマスメディアに報じられることになります。
もう一度言っておきます!#検察庁法改正案に抗議します
— 株式会社明後日 (@asatte2015) 2020年5月9日
このツイートだけではなく、
私、更に勉強してみました。読んで、見て、考えた。その上で今日も呟かずにはいられない。#検察庁法改正に抗議します
— 株式会社明後日 (@asatte2015) 2020年5月12日
など、同じハッシュタグでたくさんツイートしています。
アイドル時代(って言っていのかな?)にしてもテレビでの映像を記憶しているだけでなにも知りませんのでウィキペディアをはじめ2、3の記事を読んでみましたが、なかなかすごい人ですね。
それがこの『黄色いマンション 黒い猫』を読みますとよくわかります。
それに、文章がうまいです。というより、人を惹きつける文章を書く方で、書くことが好きな人の文章です。
「2007年~2016年まで、SWITCH連載『原宿百景』に綴った33篇と特別書き下ろし1篇を収録!」というエッセイ集です。
へー、こんなことを考えていた人なんだと、とても興味深いです。
書き出しはこんな感じ。
母親のことをユミさんと呼び、三姉妹の真ん中の姉を「二歳年上のヒロコは私の天敵だ。」と書く家族との関係も面白いです。
アイドルとなる前の中学時代から最近(2016年頃?)のことまでがランダムに並んでいます。エッセイですし、回想が多いですので全てがその時の思いというわけではないのでしょうが、中学2年の頃の話としてこんなことを書いています。
中学2年の頃に父親の会社が倒産したことがあるらしく、
学校で男の子に「お前んち、倒産したんだってなぁ」なんてからかわれたりした。「そうだよ。それがあんたにどう関係があんの!」って、言い返したらそれ以降誰もその話題に触れないでいてくれたけど。
と、その頃からしっかり主張できる人だったようです。
「タイマン」なんて言葉も出てきますのでちょっとヤ◯キ◯が入っていたのかも知れません(笑)。
他の章(各エッセイを何ていうの?)と文体が違ったちょっと不思議なエッセイがあります。段落がまったくなく一段落で最後まで続いています。気持ちが溢れ出て止まらないみたいな文体で、あるいは酔っ払って書いたのかも知れません(笑)。
「離婚して再びの一人暮らしが始まったんですよ」で始まりますが、内容は離婚のことではなく「猫」です。離婚して引っ越した先の住まいの庭に野鳥や昆虫の訪問客があり、なかでも猫たちはお気に入りということから始まり、それがきっかけで「あの子」と呼ぶ猫を飼うことになったというお話です。
で、このエッセイを書いているのは、すでにその猫が「去年の十月に」亡くなってから何ヶ月後ということです。
「泣きました。今でも泣きますよ。会いたいですよ。会いたいです。」と、4ページにわたった一段落の文章を締めています。
あるいは仕事を終えて飲んで帰って寂しさがこみ上げてきたということでしょうか…。
最後のエッセイは単行本化のための書き下ろし『逃避行、そして半世紀』で終えています。
この『黄色いマンション 黒猫』出版の2016年がちょうど50歳になる年ですので「半世紀」、離婚後「あの子」と暮らしていた時期を何かから逃げていた(のかもしれない)という意味で「逃避行」と総括し、それまでの3年間暮らしていた葉山から再び東京に戻ることにしたちょうどそのタイミングで亡くなった猫への思いに重ね合わせています。
さて、五十代に突入した私には残された時間が少ない。(略)結局、修行は続いているのだ。きっと死ぬまでずっと修行は続くのだろう。だから人は考えることをやめないし、だからこそ人生は楽しいのだ。