「大きなハードルと小さなハードル/佐藤泰志」にとって生きることはハードルなのだろう。いいえ誰でも。

2011.05.20

大きなハードルと小さなハードル (河出文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2011/06/04メディア: 文庫  「海炭市叙景」を読み始めて以来、出版されているものでは最後の作品集になってしまった。全体は7編の短編集だが、表題作を含む前半5編は、私小説のようでもある「秀雄もの」と呼ばれているらしい連作である。「美しい夏」「野栗鼠」「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のよ...

「黄金の服/佐藤泰志」を映画にしたい

2011.04.28

なぜ自分が佐藤泰志にはまっているのか。それがとても良く分かる作品集だった。黄金の服 (小学館文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2011/05/10メディア: 文庫 「オーバー・フェンス」「撃つ夏」そして「黄金の服」3編が収められている。「オーバー・フェンス」は、多分函館に戻った時の自分自身が反映された作品で、職業訓練学校に通う男を中心にした物語である。学校の科対抗のソフ...

「TRIP TRAP/トリップ・トラップ」金原ひとみはイクメンのバイブルになるか?

2011.04.20

久しぶりに「金原ひとみ」を読んだ。2004年に20歳で芥川賞受賞、文藝春秋が100部売れたというあの社会現象から7年か…。どこかのブログに「蛇にピアス」の感想を書いた記憶があるのだが、どこだったか? 探さねば…。受賞後、立て続け(という印象だった)に出版された「アッシュベイビー」「AMEBIC」「オートフィクション」と読んだが、その後は、チェックもしていなかった。まあ、飽きたということなんだが…...

「佐藤泰志/移動動物園」は、アラン・ドロン「太陽がいっぱい」のようだ

2011.04.16

画像を入れようと検索したら、「移動動物園」「そこのみにて光り輝く」「黄金の服」が文庫化されたうだ。喜ばしい。移動動物園作者:佐藤泰志発売日: 2013/08/30メディア: Kindle版 小学館に「移動動物園」についての説明書きがあったので引用しておこう。『海炭市叙景』で奇跡的な復活を果たした悲運の作家、佐藤泰志のデビュー作が文庫化。山羊、栗鼠、兎、アヒル、モルモ...

「かけら」青山七恵の男性はきれいすぎないか?

2011.04.13

かけら (新潮文庫)作者:青山 七恵発売日: 2012/06/27メディア: 文庫 あっけないくらい、すらすらと読み進めてしまう。だが、その行間から浮かび上がる風景は味わい深い。表題作の「かけら」、そして「欅の部屋」「山猫」と、短編3作が収録されている。この3作が並べられているのは意図的なのだろうか、それぞれに語り手の性別や立場が変わり、面白い。「かけら」は大学生の女性...

「西村賢太/どうで死ぬ身の一踊り」で卒業か?

2011.04.09

どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)作者:西村賢太発売日: 2018/03/09メディア: Kindle版 「苦役列車」に続いて読んだ。2、3週間前に図書館に予約し、その時は「在庫」となっており直ぐに借りられたのだが、今見ると予約が16件も入っている。私と同じ、芥川賞効果なのだろうか。西村氏の藤澤清造への傾倒ぶりは相当なもののようで、これを読むとよく分かる。全てがその...

「苦役列車/西村賢太」を読むと「ほんわか」するらしい

2011.03.24

苦役列車作者:西村賢太発売日: 2012/07/01メディア: Kindle版 いきなり、曩時北町貫多の一日は、目が覚めるとまず廊下の突き当たりにある、年百年中糞臭い共同後架へと立ってゆくことから始まるのだった。の書き出しである。まいった。「のうじ」とかなは振ってあるのだが、意味どころか、そもそも「曩時北町貫多」が何を指すのか、まあ読めばおよそ人物とは分かるのだ...

海を越える日本文学/張競

2011.03.20

海を越える日本文学 (ちくまプリマー新書)作者:張 競発売日: 2010/12/08メディア: 新書 日本の文学作品の翻訳事情を知るための入門書としては、まあまあ良い本だと思うが、この手の本にしては、記述が系統立っておらず、ややとりとめのない印象を受ける。ただ、さすがに中国での日本文学の受け取られ方については、記述も多く、説得力がある。なぜ村上春樹が海外で評価されるのか...

昭和45年11月25日三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃

2011.03.14

人生には、その時自分は何をしていたかと、いつまでも記憶に残ることがある。3日を経てもなお、被害の全体がつかめないという、想像をはるかに超えた「東北関東大地震」もそうなるのだろう。昭和45年11月25日三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃作者:中川右介発売日: 2013/05/31メディア: Kindle版 昭和45年11月25日。三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自決(...

そこのみにて光輝く/佐藤泰志

2011.03.04

佐藤泰志ブームという言葉もちらほら。この「そこのみにて光輝く」も4月に文庫で復刻されるらしいです。そこのみにて光輝く (河出文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2011/04/05メディア: 文庫 本当にすばらしい作品です。こういうものが埋もれていたなんて、と言うより、私が知らなかっただけですが、その時代に正当な評価を受け、そして売れていれば、また佐藤泰志さんの人生も変わっ...

1Q84/村上春樹がつまらないワケ1

2011.02.23

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)作者:村上春樹発売日: 2020/12/18メディア: Kindle版 まずもって、上の楽天へのリンクを作成する際、検索ワードに「1Q84」と入れて驚いた。「〜を読み解く」やら「〜研究」やらと解説本がぞろぞろ出てくるのだ。単に一作品の出版にとどまらず、一大産業の如しだ。それはさておき、「風の歌を聴け」以来、主だった長編作品を順...

草の響き/佐藤泰志

2011.02.16

きみの鳥はうたえる (河出文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2011/05/07メディア: 文庫 「海炭市情景」以来、はまっている。「きみの鳥は歌える」に併載されていた「草の響き」。全編、自律神経失調症に苦しむ主人公が、医者に勧められ、走り続ける話だが、その間に出会う暴走族のリーダー「ノッポ」が自死を選ぶ描写などあり、本人の生涯を考え合わせると何ともやるせない。どの作...

きみの鳥はうたえる/佐藤泰志

2011.02.12

きみの鳥はうたえる (河出文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2011/05/07メディア: 文庫 海炭市叙景を読み、佐藤泰志に興味を持った。芥川賞の候補となった5作品のうち、最初の作品「きみの鳥はうたえる」を読んだ。すばらしく良かった。青春、その時にしか味わえない、熱く、切なく、そしてこの上なく危うい濃密な時間が生き生きと描かれている。なぜ、芥川賞をとれなかったんだろう...

海炭市叙景

2011.02.01

海炭市叙景 (小学館文庫)作者:佐藤 泰志発売日: 2010/10/06メディア: 文庫 名古屋では、まもなく、今週末からだったと思うが、公開される予定の「海炭市叙景」を見るに先だって、原作を読んでいる。残り2,3章(正確には、章ではなく節)、今日中には読み終えることになりそうだ。第1章第1節の「まだ若い廃墟」は、かなり印象的だ。炭鉱を解雇された失業中の兄と妹が、正月、...

ひとり日和/青山七恵

2011.01.23

ひとり日和 (河出文庫)作者:青山七恵発売日: 2014/05/30メディア: Kindle版 とても新鮮な感じで読んだ。主人公知寿のつぶやきのような文体が、村上春樹の説明過剰なワンパターン小説を読み続けている私には、すうーと心が晴れるように感じられた。村上春樹など典型的だが、男の書く「女性」は、男の願望のような存在が多く、男の私でさえ、ちょっと違うんじゃないのと思うこ...

国境の南、太陽の西/村上春樹その後8

2011.01.06

新しい年が村上春樹から始まってしまいました。国境の南、太陽の西 (講談社文庫)作者:村上春樹発売日: 2018/08/03メディア: Kindle版 それにしても、タイトルのつけ方がうまい人です。ほめているわけではありません。タイトルからイメージされる(私がイメージする)ものと、内容が全く違うのに、何かしら(私は)惹かれるという意味です。この「国境の南、太陽の西」とい...

ねじまき鳥クロニクル/村上春樹その後7

2010.12.28

本当に人(私)の記憶はいい加減なものだ。「芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか - 沈黙する言葉(旧)」で、村上春樹は手に取ったこともないと、わざわざ「ねじまき鳥」を取り上げて書いているのに、何と、読み始めてすぐにこの「ねじまき鳥クロニクル」を読んでいることに気づいた。「閉ざされた路地」と言う設定で思い出した。ねじまき鳥クロニクル(第1部~第3部)合本版(新潮文庫)作者:村上春樹...

ダンス・ダンス・ダンス/村上春樹その後6

2010.12.14

ダンス・ダンス・ダンス (講談社文庫)作者:村上春樹発売日: 2018/08/03メディア: Kindle版   これまで読んだ5作品のどれよりも(物語)小説としての完成度は高い。過去記事を読んで頂かないと意味が分からないとは思うが、「先細り感」「投げ出し感」も全く感じない。長編としてのバランスもいい。発表年が1988年。ウィキペディアによると、1985年「世界の終りと...

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド/村上春樹その後5

2010.12.03

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上下)合本版(新潮文庫)作者:村上春樹発売日: 2020/12/18メディア: Kindle版 それにしても長い!し、長すぎる!でも、まあ、そこそこいやにならずに読み切ったんだから、何かしら面白さを感じているんだろうと我ながら思う。こうやって、長編ばかり、連続して読んでみると、はまる人の気持ちも分かるし、拒否反応を持つ人の気...

羊をめぐる冒険/村上春樹その後4

2010.11.14

羊をめぐる冒険 (講談社文庫)作者:村上春樹発売日: 2016/07/01メディア: Kindle版 少しばかり偉そうなことを言えば、村上春樹は、この作品で、これからの彼の作風と言えるものをつかんだように思います。いわゆる村上春樹=ファンタジーってやつです。これまで読んだ3冊(風の歌を聴け、1973年のピンボール、ノルウェイの森)は、ほとんど現実感はないとはいえ、それで...