真藤順丈著『宝島』

この本、実は直木賞受賞時に一度読み始めたんですが挫折、今回、映画化されるということで再挑戦です。頑張って読み切りました(笑)。

アメリカ統治下の沖縄20年

多分、前回は戦果アギヤーたちがキャンプ・カデナ(嘉手納基地)から米軍の物資を盗み出そうとして失敗し、米兵たちに追われる冒頭のワンシーンだけで挫折していますね(笑)。もともとあまりエンタメ系の本を読まないこともあり、ぴんとこなかったんだろうと思います。

今回最後まで読み終えて思うことは確かにエンタメではありますが、史実や実在の人物をかなり取り入れて書かれており、戦後沖縄の歴史小説という面が強い作品と感じます。

小説の基本プロットとしては、冒頭の一場面だけで消えてしまった戦果アギヤーの英雄オンちゃんを探すグスク、レイ、ヤマコの3人ということにはなっていますが、その3人がオンちゃんを探し求めてあれこれといったその過程を描いている小説ではありません。実際、オンちゃんの行方はあっさりと説明されて終わっています。

グスク19歳、レイ17歳、ヤマコ(18歳くらい?…)3人の20年の成長と変化を追うことでアメリカ統治下の沖縄を三部構成で描いている小説です。

  • 第一部「リュウキュウの青」1952−1954
  • 第二部「悪霊の踊るシマ」1958−1963
  • 第三部「センカアギヤーの帰還」1965−1972

1952年は、その年の4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効して日本が独立を回復した年です。ただ、沖縄に関しては日本の敗戦以降7年の間に起きた朝鮮戦争や東西冷戦という状況下で、沖縄全体がアメリカ軍の軍事基地化されてしまい、1952年以降もアメリカの統治下に置かれることになったのです。

1972年というのは沖縄の施政権が日本に返還された年です。この20年間を沖縄では「アメリカ世(アメリカゆー)」というようです。小説の中でも出てきます。琉球政府という行政府は置かれますが、常にその上にはアメリカ(軍)がいるという状態です。

小説の中にも出てくる悪名高きキャラウェイといった高等弁務官が全権を握っているような時代ということです。ただ正確には高等弁務官が置かれるようになったのは1957年からで、それまでの5年間は琉球列島米国民政府という組織による統治となっています。

この20年間の沖縄の通貨はドルですし(正確には1958年から…)、本土との行き来には渡航証明書(パスポートのようなもの…)が必要ですし、車も右側通行です。

そして最も需要なことは、敗戦直後から「銃剣とブルドーザーによる土地接収」と言われるアメリカ軍による強制的な土地の接収が行われたことです。それとともにアメリカ軍人による殺人、傷害、強姦、放火といった犯罪も多発しており、逮捕権や捜査権もない状態が続いていたのです。

そうした時代における沖縄の市井の人々の生き様がその歴史とともに描かれている小説です。

「リュウキュウの青」1952−1954

1952年、オンちゃん20歳、グスク19歳、オンちゃんの弟レイ17歳、そしてヤマコ18歳(くらい…)の4人、いや、オンちゃんを除いた3人の20年を追うことで沖縄を語っていきます。

4人は戦果アギヤーです。ヤマコは実働部隊ではありませんがオンちゃんと付き合っており、いつも連れて行ってくれと一緒に行きたがります。

この戦果アギヤー、実際にそうした存在がいたようで、ウィキペディアにも項目があり、

戦果アギヤー(せんかアギヤー)とは、アメリカ統治下時代の沖縄において、米軍基地からの窃盗行為を行う者たちを意味する言葉。「戦果を挙げる者」という意味である。

「戦果」は困窮する人々に無償あるいは安価で分け与えられたため、住民から英雄視される例もあったとされる。

戦果アギヤーの一部は後に組織化し、横流しなどの利権を得て沖縄県の暴力団の一勢力を形成していくこととなった。
ウィキペディア

などとあります。

Senka-Agyaa
戦果アギヤーを取り締まるアメリカ軍憲兵と民警察
See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons

オンちゃんは戦果アギヤーの英雄です。いわゆる義賊ということですが、基地から盗んだ資材で学校まで建てたという記述があります。

その日のキャンプ・カデナ襲撃計画にはオンちゃんたちのコザだけではなく、那覇、金武、浦添、名護、普天間の戦果アギヤーたち総勢20人が加わっています。ところがいつも通りのオンちゃんによる周到な計画のはずが、なぜかアメリカ軍に追われる羽目に陥ります。

そして3人は散り散りばらばらになり、なんとか基地から逃げ出したグスクは、オンちゃんを待っていたヤマコとともに岩場から海に飛び込み、アメリカ軍を振り切って逃げおおせます。しかし、オンちゃんは行方知れずとなり、レイは怪我のために病院に送られたもののその後は刑務所送りになります。

グスクはこのキャンプ・カデナ襲撃事件には不可解なことがあると言います。侵入経路が自分たちのもの以外にもうひとつあったらしく、それに事件の翌朝からアメリが軍が厳戒態勢を敷いているのもおかしいと言い、それを聞いたヤマコが、そもそもなぜオンちゃんは危険なキャンプ・カデナを襲撃の場所に選んだんだろうと言い出します。

ということになり、この先この不可解なことが少しずつ明らかになりオンちゃん失踪の理由が明かされ、おお、そういうことか! と、最後はオンちゃんが現れるのだろうと予想するものの、そういう展開にはなりません(笑)。

二人は病院のレイを訪ね、この襲撃計画はオンちゃんの計画ではなく、与那国の密貿易団から家族に危害を加えるぞと脅迫されてのことであり、オンちゃんのところへ謝花ジョーという男が頻繁に来ていたと知らされます。

レイとグスクは刑務所へ、沖縄刑務所暴動

これ以降3人が共に行動することはなく、それぞれの成長とその周囲で起きることが描かれていきます。

まずレイです。退院したレイは刑務所に入ります。レイの性格は「頭よりも腕っぷしで生きているはねっ返り」で刑務所でも看守たちに目の敵にされる存在です。それでも受刑者の国吉やタイラと親しくなり多くのことを学んでいきます。この二人は最後まで物語に絡んできます。

数カ月後、レイは看守の隙を盗んで脱走し、謝花ジョーを探し回ります。そして、ジョーがしばらく転がり込んでいた Aサイン(米軍御用達の飲食店や風俗店…)のチバナという女から、あのあくる朝、ジョーが「これからコザの大将に会ってしくじった落とし前をつけさせる」と言って出ていったことを聞き出します。さらにチバナはその2、3ヶ月後、ジョーが逮捕され刑務所送りになったと言います。

レイは今出てきたばかりなのにと悔しがりながらもオンちゃんが生きていると確信し、喜び勇んで地元に戻り、偶然出会ったグスク(こういう段取りが多い小説です…)にチバナから聞いた話を伝え、さらにヤマコのもとに駆け出したところで刑務所の看守に捕まり刑務所に逆戻りです。

グスクからこの話を聞いたヤマコは自分が刑務所に入ってジョーを探し出すと言い出し、グスクがそれを止めて、グスク自ら自首して刑務所に入ります。

グスクとレイのいる刑務所に瀬長亀次郎が入ってきます。瀬川亀次郎は実在の人物で、この時立法院の議員ですが、

1954年10月、米国民政府は瀬長を、沖縄から退去命令を受けた人民党員をかくまった容疑(出入国管理令違反)で逮捕、懲役2年の刑の判決により再び投獄された。
ウィキペディア

瀬川亀次郎さんは映画にもなっています。

また、その年の11月には沖縄刑務所で受刑者たちの暴動が発生したという事実もあり、それらが取り入れられて話は進みます。

暴動の史実を描くというよりも、どちらかと言いますと、暴動の最中にグスクとレイを刑務所内で動きやすくして、その間に謝花ジョーを見つけ出させるという流れです。ジョーは感染症により刑務所内の病舎に入っており危篤状態です。ジョーは死に際にオンちゃんが「予定にない戦果」を持ち出したことを言い残して亡くなります。

暴動は続いており、穏健派と武闘派の対立となり、待遇は改善されるからと受刑者たちをなだめようとする瀬長亀次郎に対してレイが立ち上がり、「この刑務所は今の沖縄と同じさ。おいしい条件を出されて飼いならされるだけさ。最後の最後まで戦い抜かなくちゃならん」と武闘派のリーダーよろしく不満を持つ受刑者たちを煽ります。

多くの受刑者は帰房しますが、レイを含めた10人ほどは最後まで抵抗します。しかし、暴動は鎮圧されて終わります。

「悪霊の踊るシマ」1958−1963

このままいきますと無茶苦茶長くなりそうですので簡潔にいきましょう(って書いたものの結局長いです(笑)…)。

1958年、その後出所したグスクは警察学校を卒業しコザ署の刑事となっています。6年後ですのでグスク25歳になっています。上司は徳尚刑事です。

殺人事件が起きます。20歳代の女性がレイプされ惨殺されます。現場にはMPも来ていますのでグスクは米兵の犯行だろうと言い、それに対して徳尚が「あの事件を引き合いに出したくなるのはわかるが」と言うように、この事件自体は創作ですが、1955年に起きた「由美子ちゃん事件」という米兵による幼児への強姦殺人事件が意識されています。

無茶苦茶ひどい犯罪なんです。リンク先をお読みください。

物語の流れとしては殺人事件の捜査が描かれていきますが、それよりも重要なのは第一発見者である5、6歳の浮浪児です。後にウタと名付けられますが、この時点では言葉を発しない少年というだけで進んでいきます。

グスクと徳尚はひとりの米兵に目星をつけ、女性への暴行現場を抑えて逮捕しようとしますが一旦逃げられます。その後グスクが追いついて格闘となり、そこにMPとともに日本人の通訳をつれたアメリカ人がやってきて、「折り入って君と話がしたい」と後日の約束を取り付け米兵を連れて行ってしまいます。

そのアメリカ人はアーヴィン・マーシャルを名乗り、自分は米民政府の諜報部員で米兵犯罪の防止という匿名任務を負っていると言い、お互いに情報交換をしたいと言ってきます。要はスパイになれということですが、グスクはオンちゃんの情報を得られるかもしれないと引き受けます。

このマーシャルという名は、1965年に琉球商工会議所会頭とその兄による「沖縄政財界人恐喝事件」というものが起きており、その恐喝に「秘密情報組織マーシャル機関」という名が使われていますのでそこから取っているネーミングかもしれません。

レイはヤクザとなり、ヤマコは教師となる…

レイは出所し、脱走した際に出会ったチバナのもとに転がり込み、用心棒のようなことをしています。コザでヤクザになったということです。

レイは刑務所で知り合ったタイラと再会します。ここでまた実在の人物が登場します。レイはタイラから又吉世喜を紹介されます。ウィキペディアによれば「沖縄ヤクザ史上最大のカリスマといわれている」人物だそうです。

レイの前にもグスクが追っていた殺人事件の第一発見者、後のウタがちょこちょこ顔を出します。重要人物ということです。

その頃ヤマコは4年間女給として働きながら勉強をして教員試験に合格して教員となっています。そして、キャンプ・カデナの近くで浮浪児が仲間からいじめられているのに出くわします。後のウタです。ヤマコは教員の仕事の合間に孤児たちに本の読み聞かせをしたりして次第にウタとも親密になっていきます。

ヤマコが教える学校に米軍のジェット機が墜落します。1959年に実際に起きた「宮森小学校米軍機墜落事故」です。

死者17人(小学生11人、一般住民6人)、重軽傷者210人、校舎3棟を始め民家27棟、公民館1棟が全焼、校舎2棟と民家8棟が半焼した。
宮森小学校米軍機墜落事故

ヤマコの教える生徒たちも犠牲者となります。教え子を失ったショックで教師としての自信を失ったヤマコの前にウタが現れます。読み聞かせをねだるように、名前であるかは定かではないものの自ら「ウタ、ウタ」と言います。そしてウタと呼ばれるようになります。

再び教員としても道を歩みだしたヤマコは積極的に市民運動にも参加するようになり、後に琉球政府の行政主席、そして本土復帰後は初代沖縄県知事となる屋良朝苗のもとで「沖縄県祖国復帰協議会」に携わるようになります。

ということで、グスクは刑事かつアメリカのスパイ、レイはヤクザ、ヤマコは教師かつ市民活動家になっている8年後(くらいかな…)です。グスク27、8歳、レイ25、6歳、ヤマコ26、7歳です。

オンちゃんの死…

このあたりの展開は物語も進めなくっちゃいけない、史実も入れたいし、みたいなことからだと思いますが、話が飛んだり、都合よくつじつまを合わせたりと、肝心のオンちゃんはどうなってるの? とやや散漫になっています。それに、コザ派と那覇派の対立とか、キャラウェイ暗殺が計画されているとか、その黒幕がオンちゃんじゃないかとか、密貿易団の話とか、かなりとっ散らかっている印象です。

そして、あっけなくオンちゃんの死が明らかにされます。

悪石島です。レイが悪石島に渡ります。この島が密貿易団の中継所ということからだと思いますが読み直してもなぜレイが悪石島に渡るのかよくわかりません。この小説、物語の流れが悪いですね(ゴメン…)。ただ、レイはこの島で自分に向かって「娘を返せ」と繰り返す老人に出くわします。オンちゃんの弟である自分が間違えられていると悟ったレイはこの島にオンちゃんがいたことを確信します。

その老人によれば、娘(孫?…)は密貿易団と一緒に島にやってきた男のもとに通っていたらしく、その後、密貿易団がアメリカ軍に急襲された際に、どさくさに紛れて男とともに船で島を脱出しようとしたものの船ごと沈んだと言います。そして老人は、その場所からこれを見つけたと、レイの前にオンちゃんが身につけていた魚の歯の首飾りを差し出します。

レイは沖縄に戻りヤマコに会います。オンちゃんのことを知らせるためということですが、もともとレイはヤマコが好きであり、でも兄オンちゃんの女(そういう言葉のニュアンスが似合う小説です…)であり、それを英雄だけが抱ける女であると自分を抑制していた気持ちが切れてヤマコを路地に押し込んでレイプしてしまいます。

で、記述はありませんが、多分オンちゃんのことも話したのでしょう。そして多分、レイはチバナにも話したのでしょう。グスクはオンちゃんの死をチバナから聞きます。

そして、1961年の9月、オンちゃんの島葬が営まれます。

あの伝聞と首飾りだけで死んだことにしちゃうのもどうなんでしょう。オンちゃんの存在はその程度のものだったの、と思いますけどね。

とにかく、同じ頃、キャラウェイ高等弁務官暗殺の計画が実行されようとしたいたと続きます。長くなりますので省略です。この暗殺未遂事件は創作のようです。

「センカアギヤーの帰還」1965−1972

ベトナムを含めたインドシナは1940年の日本進駐以降、常時戦乱が続いており、日本敗戦後のベトナムではフランスに対する独立戦争が始まり、1949年にはフランスを後ろ盾にした南ベトナムと中国とソ連の後押しを受けた北ベトナムが建国されて緊張状態が続いています。その後、撤退したフランスに変わり、アメリカが南ベトナムに傀儡政権を建てることになり、1965年になりますとアメリカは戦闘部隊をベトナムに派遣し、さらにB52爆撃機による北爆を開始して本格的な軍事介入をします。そのB52爆撃機は嘉手納基地から飛んでおり、沖縄はベトナム戦争の前線基地にされていくという時代です。

また、同じ年の1965年には当時の佐藤栄作首相が現職の首相としては戦後初めて沖縄を訪問し、沖縄の本土復帰を訴えます。そうしたこともあり沖縄の本土復帰運動も盛んになります。

そうした時代背景の中でのグスク、レイ、ヤマコ、そしてウタたちが描かれていきます。

グスクは刑事としてコザ派と那覇派の抗争であったり、アメリカ軍の諜報部員マーシャルと情報交換するなどしてアメリカ軍人絡みの事件に当たっています。ウタは13、4歳になっており、いわゆる街のチンピラになっています。ヤマコは教師と市民活動家を両立させています。

そんな折、グスクやヤマコ、そしてコザのあちこちに「戦果」が届くようになります。オンちゃん? そんなはずはないとふたりは混乱します。そしてその「戦果」にはガスマスクまで入るようになります。

1968年、嘉手納基地から沖縄に向かおうとしたB52が離陸に失敗し墜落して炎上、大爆発を起こします。これは史実です。

当該機が搭載していた燃料及び爆弾に引火、大爆発を引き起こした。搭載していた爆弾は両翼下に500lb(230kg)爆弾24発、爆弾倉に750lb(340kg)爆弾24発で、合計30,000lb(14,000kg)に及んだ。これら燃料と爆弾がもたらした大爆発は、深さ30ft(9.1m)、幅60ft(18m)のクレーターをつくった。爆風は4キロメートル四方にまで及び、139棟の家屋が破損し、23miles(37km)離れた那覇空軍基地(現在の那覇空港)の薬局の窓までも破壊する程であった。現場からは100メートルを超す高さにまで真っ赤なキノコ雲が立ち上り、目撃した多くの住民らは戦争による攻撃か原爆または水爆が爆発したのだと思って避難を始め、大騒動となった。
嘉手納飛行場B-52爆撃機炎上事故

事故後、グスクに顔見知りの米兵から事故現場にはマスタードガスや枯葉剤といった化学兵器を保管する倉庫があり、衛兵が病院に運ばれたらしいとの情報がもたらされます。

アメリカが沖縄に化学兵器を持ち込んでいる、グスクがその情報を新聞社に持ち込むかどうか思い悩んでいる時、マーシャルがそれを嗅ぎつけ、脅しにかかります。結局、それがためにグスクは那覇警察を解雇されます。

そんな脅しをかけたら余計公表されるというふうには考えないんですね(ツッコミゴメン…)。

翌朝の新聞に「沖縄に毒ガス部隊配置」のスクープ記事が出ます。グスクではなく米兵の被害家族がリークしたものでした。

こういう拍子抜け展開が無茶苦茶多い小説です(笑)。史実を交えているためにそうせざるを得ないということなんでしょう。

レッドハット作戦 (英語: Operation Red Hat) は、沖縄本島の米軍基地知花弾薬庫に極秘裏に毒ガスが貯蔵されていることが明るみに出たのをきっかけに、これを島外に移送するため1971年に実施されたアメリカ軍の一連の作業である。

コザ暴動(コザ騒動、コザ事件、コザ騒乱)…

B52爆撃機炎上事故もそうですが、アメリカ統治下で軍事基地化されてしまった沖縄では数え切らないほどの事件や事故が起きています。そして1972年の本土復帰を前にして、それが決して沖縄からそうした事件や事故がなくなることに繋がらない、つまり、基地を残したままではアメリカが日本に変わるだけではないかという疑念が晴れない状態が続いています。

1970年、アメリカ軍は沖縄返還を控えて経費削減のために基地で働く沖縄の雇用員26,000人のうち2,400人を解雇すると通告したためにストライキが断続的に行われています。すでに書いた毒ガス漏洩事件、そして糸満町では酒を飲んだ上にスピード違反の米兵が歩道に乗り上げて女性を轢き殺すという事件が起きています。

この事件でアメリカ軍の軍法会議は加害者に無罪判決を下しています。さらに続けざまに米兵による強盗事件が続発しています。抗議集会やデモが毎日のように行われ沖縄は混乱状態に陥っていきます。

この第三部はこうした史実が書き綴られていきます。

そして1970年12月20日、コザ中心街で米兵が起こした交通事故をきっかけにして「コザ暴動」は起きます。

その中にグスクがいます。ウタを探すヤマコもいます。

群衆はキャンプ・カデナの金網に到達し、今にも押し倒す勢いです。グスクに19歳の頃の戦果アギナーの自分がよみがえります。

胸の底から衝き上がるものがあった。グスクのまわりの風が沸騰していた。
運命にひしがれて、戸惑い、さまよい、抑えきれないものを解放した人々が走っている。

グスクはキャンプ・カデナに侵入するひとりの男を見ます。

ついに、ついに見つけた。オンちゃん ―

レイです。レイの後に続く武装集団は「戦果」として島中に配られたガスマスクをしています。レイたちはキャンプ・カデナにVXガス攻撃を仕掛けようとしているのです。

で、その混乱の中、なぜかグスクとレイは一対一の二人だけになり、にらみあう中(しゃべりあう中…)米軍のヘリコプターに照射され、ヘリコプターから降りてきた諜報部員のマーシャルと武装米兵に包囲されます。

銃声一発、ウタが登場し、米兵がひとり倒れています。

ウタ誕生の秘密…

ウタが米兵に射殺されます。そこにレイと行動をともにしたり、あるいはレイが今回のように過激行動をとるときには離れたりする又吉世喜が登場し、グスク、レイ、そしてすでに話すことも叶わないウタを救い出してくれます。

ここで水を指すことではありませんが、あれこれ都合よすぎますね(ゴメン…)。

そして、そうした戦果アギナーの勇姿たちを金網の外で待つヤマコ、それはヤマコにとっては20年前の再現です。待ちわびても戻らなかったオンちゃん、戻ってきたものの二度とまぶたを開くこともないウタ、ヤマコは行かなくてはいけないところがあるとグスクやレイに告げます。

3人は宜野座(だったと思う…)の洞窟(ガマ)に向かいます。そこは以前ヤマコがウタを追って入ったことのある緑深い森の中のガマです。

あの日、オンちゃんは基地から出たものの密貿易団に捕まり悪石島に連れて行かれた。その時オンちゃんは「予定にない戦果」を手にしていた。その戦果とは米軍の高官との間に生まれた望まれない子だった。その子の母親はキャンプ・カデナの中の御嶽(ウタキ)に入りその子を産み落とした。あの日、オンちゃんはウタキに逃げ込みその子を発見して抱きかかえて基地の外に出た。そして密貿易団に捕まり、悪石島に向かい、その子を守るために密貿易団の手下となり、舌を切られ、同じく聾唖の娘と暮らしながら、アメリカ軍の摘発に乗じて、首飾りはなくしたものの島を脱出し、このガマにたどり着いた。そしてその子が3歳の頃、オンちゃんはなくなった。その後、その子は街に出て浮浪児となった。ウタである。

3人はガマの奥に残されたオンちゃんの遺骨の横にウタの遺骸を横たえます。沖縄が日本復帰を果たす日、ウタ20歳、あの日のオンちゃんと同じ年になっています。

そして最後は1972年、登場人物それぞれのその後が語られて終わります。

読み切ったと言うもののかなり読み飛ばししています。やはり、物語展開の都合よさとか、肝心のところが描かれずに説明で済ましているとか、その熱量が小説のエネルギーにまでは昇華していません。

沖縄の持つ史実の重さには立ち向かえなかったということだと思います。

これを映画化するにはかなり翻案しないと難しいですね。どうなるんでしょう? 9月19日公開です。