2023年本屋大賞受賞作です。凪良ゆうさんは2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞しています。
ネタバレあらすじ
図書館に予約しておいた本ですので、いつ予約したかも、なぜ読もうと思ったかも記憶がなく、多分何かで書評を読んで興味を持ったんだろうとは思います。
凪良ゆうさんの本はこれが初めてですが、『流浪の月』は映画を観ています。
映画からの感想ですが、女性が持つ男という存在への妄想が描かれていました。
で、この『汝、星のごとく』です。
読みやすい文章ですので読み進むのは楽です。ただし長いです。プロローグから第五章まで章立てになっており、エピローグで締められています。第一章を読んだところでの一番の感想は冗長だなあというものです。
なぜ冗長と感じるかと言いますと、最初から最後まで暁海と櫂が交互に一人称で語っていく構成になっており、それぞれの語りには確かに違った視点が感じられることもあるのですが多くは繰り返されている印象が強いのです。あえて交互に一人称で描写しなくても簡潔に第三者視点で書いていけばいいのにと思ったということです。まあ余計なことですし、全体が細かく分かれていますので読みやすいことはあります。
暁海と櫂の17歳から32歳(ともうちょっと…)までの物語です。各章には「潮騒」「波蝕」「海淵」「夕凪」のタイトルがつけられています。ただ、上に書いたようにその章の中が交互記述に細かく分かれていますので章タイトルにはあまり意味は感じられません。
あら捜しばかりしているみたいですね(ゴメン…)。そんなつもりはないのですが根がそういう性格なんでしょう(涙)。
プロローグ
「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。」と始まります。
妻は暁海、夫は北原先生と呼ばれ、夫をお父さんと呼ぶ結が登場し、そこは娯楽の少ない島であり、それだけにこの家族の噂話は「島民共有の現在進行系リアル・エンタテインメントだ」と語られます。
小説の時代がいつと書かれていたかの記憶はありませんが、ミスチルの曲が流れてなんて記述がありましたので1990年代かと思いもしましたが、メッセージのやり取りをするとかマッチングアプリなんてものも出てきますので違いますね。執筆時と同時代でしょうか。
ただ、物語自体は昭和的です。
第一章 潮騒
暁海、櫂ともに17歳、同じ高校に通っています。というより1校しかないのでしょう。1学年30人とあります。
櫂は京都から転校してきたばかりです。母親が付き合っている男を追ってその島にやってきたからであり、今は島でスナックをやっています。母親は男性依存から抜け出せない女性で、ずっと失敗続きです。櫂はそんな母親にうんざりしていても突き放すこともできず、そんな自分にもうんざりしています。共依存ですね。
櫂はネットで知り合った2つ年上の尚人と漫画を描いています。櫂がストーリーを書き、尚人が絵が描くという、原作:櫂、作画:尚人という共作スタイルです。少年向け漫画雑誌に投稿してもなかなか評価は出なかったのですが、ある編集者の目にとまり、投稿先を青年向けにしたところ次第に注目されるようになっていきます。
暁海は島で生まれ育っています。両親はいますが父親には他に付き合っている女性がおり、あまり家に帰ってきません。母親は専業主婦であり、このことでどんどん精神的におかしくなっていきます。
子どもとしては耐えられません。ましてや狭い世界のことです。ある日のこと、母親が「お父さんの様子、見てきて」と言い出します。嫌だとは言えない母子関係です。こちらも共依存といえば共依存です。
その日のこと、暁海は櫂と初めて言葉をかわすことになり、その場にいた櫂の母親について、ついひどい言葉を使ってしまい、その焦りからか、わけも説明せずに櫂を父親の様子を見に行くために同行させます。
父親の浮気の相手瞳子さんは経済的にも精神的にも自立した女性です。瞳子さんは刺繍で生計を立てています。櫂は「あれはあかん。手強すぎる」と自分の母親と比べて言います。
この瞳子さんの生き方は最後まで暁海の目指すところになります。また、これ以降、暁海と櫂は親しく話すようになり、ふたりは付き合っていると島中で言われることになります。櫂は早く島を出たいと言い、漫画の道でそれを叶えようと考えています。暁海も櫂に影響され東京の大学へ進みたいと思うようになっていきます。
櫂たちの漫画は人気が出始めついに連載が決定します。暁海の方は瞳子さんとも親しくなり、刺繍を教わったりしています。櫂が卒業後は東京に行くことを決めたことから自分も東京の大学へ進学することを決め、母親にも宣言します。
この頃ふたりはすでにセックスをする関係になっており、たまたまその場に出くわしてしまった北原先生はふたりに避妊はしていますかとコンドームを渡したりします。
と、この章のラストに事件が起きます。
暁海の母親が灯油缶を持って瞳子の家へ向かったのです。ちょっとしたいざこざにはなったものの櫂や北原先生の助けを得て最後の最後で事件にはならずにすみます。
後日、櫂のもとには「ごめん、東京いけない」とメッセージが入ります。
第二章 波蝕
章はかわっても時代は続いています。暁海と櫂、遠距離恋愛時代です。
まあこの後の展開はおおよそ想像がつきます。櫂は漫画で成功するでしょうし、暁海は相変わらず島で悶々でしょうし、結果としてふたりは別れることになるのでしょう。
これ、読み終えてわかっているから書いているわけではなく、この分厚い本の1/4程度でこの展開であれば他に考えようがありませんし、逆にいえば予想通りになるから本屋大賞ということだと思います。
その予想からいけば、プロローグで暁海と北原先生が夫婦で、子どもの結も父親の浮気と思われるような行為を受け入れていることから考えますと、おそらくエピローグでは櫂はもういなくなっているでしょうし、それがゆえに暁海はある種悟ったような夫婦関係を受け入れていると考えられます。
ただ、この予想はもう少し読み進んだ時点での予想であり、第一章を読み終えた段階ではプロローグは何らかのトリックかななんて考えていました。どういうことは想像もつきませんでしたが、さすがにこの段階でこれだけばらしてしまうことはないだろうと思ったからです。
櫂と尚人は漫画家として成功を収め、櫂の生活は成金化していきます。近づいてくる女性も多くなり、関係を持つことにもなります。暁海の方は就職し手取り15万円の生活です。瞳子さんに教わる刺繍がある意味心の支えになり、続けるうちに才能が開花していきます。
この後、女性の社会的な立場についての記述がかなり多くなります。女性がどんなに頑張っても男性と同等に見られないとか、結婚することが女性のためだという世間だとかです。
遠距離恋愛の暁海と櫂の関係はほぼドラマパターン通りに進みます。成金化した櫂には時に暁海がダサくみえますし、しかしつらいときになると暁海との過去を思い出すというパターンです。仕事も忙しくなり一年に一度の再会もおろそかになり、そしてついに別れです。そのやり取りもほぼパターンです。別れましょうという暁海を櫂がベッドに押し倒すところまでパターンです(これ、どうよ…)。
率直なところ、この遠距離恋愛の章も冗長で長いです。
そして今度は櫂の方に事件が起きます。共作の相手の尚人にスキャンダル発生です。尚人は早い段階にゲイであると語られています。随分前から高校生の男性と付き合っており、ただその付き合いも手を握る程度でセックスはなかったのですが、高校卒業した際の旅行で初めて結ばれ、それを機にその相手が親にカミングアウトしたということです。その時の年齢が18歳になっていなかったということで未成年と淫行とスキャンダルになります。
連載は差し止めになり、発行分は絶版になります。二人は完全に干されることになります。
第三章 海淵
それにしてもきれいに分量が分かれています。実際のページ数でもここまでほぼ1/2です。
この段階での予想は、おそらく櫂の方は成功からの転落と失意が描かれるでしょうし、暁海の方は、わからなかったですね。暁海が東京へ行くのか、櫂が島に帰ってくるのかどうなるんでしょう。
と考えていましたら、暁海に事件が起きました。母親が宗教にはまり(具体的記述はない…)、それを責めたために母親は車で出奔し事故を起こします。そのためにお金が必要になり、瞳子さんや父親に借りようとしますがなんともなりません。暁海は東京にまで出掛け、櫂に何も言わずにただただ頭を下げて300万円借りることになります。
しかし、その頃の櫂は社会的にいえば転落の一途をたどっているわけで、経済的な蓄えがあるとはいえ、もう漫画は尚人以外とは関わらないと決めている状態です。
ですので、この章は暁海にとっても櫂にとっても後悔しかないどん底の章ということになります。
櫂には日々暁海のことが頭に浮かぶ毎日であり、それは毎月決まった日にちに3万5千円振り込まれる返済金だけが唯一のつながりになります。その思いとは裏腹にと言いますか、つながりも持ちたいがゆえの行為として櫂はわざわざ暁海に4万円返せないとメッセージしてしまいます。暁海はそれ以降毎月4万円返済してきます。
自己嫌悪におちいる櫂です。そしてほぼ蓄えも使い果たした櫂はホームレスのようにさまよい歩き、そして血を吐きます。癌です。
癌って、安易ですね。
一方、暁海もすっかりまいっており、たまたまある男と関係を持ったことから島中の噂の種にされ、精神的どん底状態です。そんなある日、暁海は北原先生から結婚しませんかと言われます。ここまでの流れでこの北原先生という人物はまるで聖人のような存在に描かれていますので、本人が互助会というように、愛(ここでは恋愛という意味…)もなく、セックスもない結婚であることは読んでいてわかります。
暁海は北原先生と結婚する道を選びます。
櫂の方は尚人が自殺し、体の状態はますます悪くなり血を吐いて入院します。
第四章 夕凪
むちゃくちゃ昭和ドラマになってきました。実は第一章を読み終えたあたりから思っていたことですが、これ、ほぼ昭和のドラマパターンで構成されています。
集団からはみ出した者同士の恋愛、男によって変わっていく女、遠距離恋愛、男の成功と奢り、女からの実は望んでいない決別、男の堕落、さてどうなるんでしょう。
男を忘れられない女の献身と相場は決まっています。
櫂の入院を知った暁海には櫂のもとに駆けつけようとの思いが沸き立ちます。暁海の心は北原先生への感謝との間で引き裂かれます。さて、どうするか。北原先生が暁海の様子を見て察してくれます。そして、暁海の東京行きを後押しします。
この章は完全ファンタジーになっています。これまで冗長と思うくらいに書き連ねてきたのがここでは実にあっさりしています。
暁海は東京でアパートを借り、櫂と一緒に暮らします。このときの暁海はすでに刺繍の仕事でかなりの収入を得ており、二人の生活を支える状態になっています。
第四章はかなり短く、その分第三章が長めだったということになります。
暁海が櫂を看取ってこの章は終わります。
エピローグ
プロローグの暁海と北原先生の夫婦関係はあるいは叙述トリックかとも思いましたが、そんなことはなくそのままの意味で、北原先生が月に一度会いにいく相手は娘の結の母親です。
結は北原先生と生徒の間に生まれた子どもであり、その詳細は語られませんが、北原先生の聖人のような振る舞いはそうした過去への贖罪的な意味合いだったということです。北原先生の暁海への気遣いはそれゆえであり、夫婦であっても二人の間にはセックスはないことがあえて語られています。
結もできた子どもでそうしたすべてを理解した上ですべても認めている人物と書かれています。
そしてエンディング、暁海のもとに分厚い郵便物が届きます。暁海は櫂との思い出の浜辺に下りて開封します。そこには一冊の本が入っており、その本には『汝、星のごとく 青埜櫂』と記されています。
あ、そう。見事な昭和のドラマパターンでした。
感想:昭和ドラマパターンの令和アレンジ版
こういう見方になってしまいました(ゴメン…)。
昭和ドラマの令和アレンジ版ということです。昭和のドラマパターンに今的な要素を加味しているということです。尚人のゲイ・アイデンティティもそうですし、物分りのいい聖人的北原先生と娘の結の存在もそうです。それに際立つのは瞳子さんという経済的に自立した女性存在です。
ただ、瞳子さんにもある種精神的な弱さがあるようにも書かれており、これは未だ女性をあえて女性として書かざるを得ない社会性の現れだと思われます。
それでも徐々に変わりつつあるということかとは思います。こうした大衆小説においても女性の社会性を抜きにしては共感の得られる物語は受け入れられなくなっているということなんでしょう。
この小説、映画化されたようです。

横浜流星さんと広瀬すずさん、監督は藤井道人監督、製作は東宝です。
キャスティングは東宝らしいといえば東宝らしいですね。すでに俳優として出来上がっているこの二人で、初々しくなくっちゃ成り立たないこの暁海と櫂は成り立ちますかね。
多分、藤井道人監督ということもあり観ることはないとは思います。
